2023年2月10日第1刷発行
左右社
ルーマニアには職業作家というのはいないそうです。
市場規模が小さすぎて商売にならない。
小説を書く人はいるにはいるが、皆さん兼業なのだとか。
この辺は、本書を読むとわかる、ルーマニアの悲しい歴史も関係しているのですが。
だからといって、作家になるのは簡単ではないです、もちろん。
まず、ルーマニア語を学ぶだけでも一苦労。
そもそもテキスト自体が非常に少ないです。
済東鉄腸さんは、ルーマニア語の入門 (<テキスト>)とニューエクスプレス ルーマニア語(CD付)の2冊を頼りに学習を始め、その後は、Facebookでルーマニア人の友達をつくりまくり、ルーマニア語を学んでいきます。
大学卒業後、うつ状態になり、コロナ禍中の2021年にはクローン病という難病にかかり、家からほとんど出られないまま、ネット上で築いた人脈だけで本当に作家になってしまう行動力は凄まじいです。
そして根っからの語学好き、辞書好き。
リアルでは一度も会っていないルーマニアの高校生詩人、トニ・キラさんやルーマニア語の翻訳家、住谷晴也さんとの交流にも、こんなことあるんだと驚きます。
ルーマニア映画や小説の紹介もあり、また読みたい本が増えてしまう。
年間1000冊を読むという〈ひきこもりの俺〉の文学批評は鋭く、ちょっと癖のある文体も気にならないくらい楽しく読めました。
俺にとって重要なのは、俺を取り囲む、このどこまで行っても日本って感じの全てについて、ルーマニア語で考えるってことなんだ。日本語でできた俺の世界を、ルーマニア語でゆっくりと捉えなおすってことなんだ。
おつき合いありがとうございます。