2023年3月31日発行

亜紀書房

 

 

 

この国に「自然」は存在しない。自分たちを取り囲む世界が存在するだけだ。

 

 

2005年に来日し、英語教師、ジャーナリストとして活動する著者が、長野県松本市、三重県御浜町などで暮らしながら全国へ足を運び、日本の野草や海藻文化を訪ねたことをつづったものです。

 

 

・熊本県阿蘇谷と長野県アファンの森で「山菜の天ぷら」

・福井県高浜町で「フキの葉包みのおにぎり」

・滋賀県高島市朽木で「栃餅」

・京都市大原野上里北ノ町と北秋田市根森田で「タケノコ」料理

 

などなど

 

地元の人に話を聞き、伝統料理をいただきます。

 

 

 

農耕が始まるまで、食の中心は狩猟採取でした。

 

引用されている食文化史研究家・永山久夫の文章によると「日本各地にある縄文人が残した貝塚から出土した貝の種類はざっと350種以上」、鳥類は70種以上、獣類は60種以上、鳥類は35種以上、種実類は30種以上、そのほか、植物100種類以上あるそうです。

 

のちに稲作が伝わると、米が栽培できる場所では、天然の食物は「添え物」のような扱いに。

しかし、国土の4分の3を占める山岳地帯では、採取、狩猟の伝統が維持されてきました。

 

それが一変するのは戦後に近代化が急ピッチで進んでからです。

 

トチノキなどは経済的価値の低い「雑木」として伐採され、スギやヒノキを中心とする針葉樹の人工林に取って代わられたのは、『マザーツリー』で紹介されたカナダの状況と同じです。

 

手間のかかる灰汁抜きしをして栃餅を作ってきたのはなぜか。

それは、栽培作物が不作のとき、人々の命を支えてきた貴重な実りでもありました。

 

飢えをしのぐための代替食物なのか、手間のかかる贅沢品なのか。

 

今となってはそのどちらでもあろうと著者は言います。

 

 

著者のウィニフレッドは本物のわらび餅を求めて、岩手県和賀町にも行きます。

 

私は、山菜のワラビとわらび餅の「ワラビ」が同じだということに、はじめて気づきました。

(わらび餅を作るときの粉はワラビの根っこからとったでんぷんで作られるのです!)

 

一般に売られているわらび餅の原料が、主にサツマイモの粉だということも。

 

 

石川県・能登では天然ワカメ。

今のワカメは養殖がほとんど。

私は自分が天然ワカメを口にしたことがあるのだろうかと考えました。

 

 

最終章では、アイヌの人が食べてきたものが紹介されます。

 

ごく最近まで狩猟採取で生活してきたアイヌは、明治政府の「開拓」によりほぼ和人化してしまったといいます。

 

 

若い人たちがかわいそうだと思う。(中略)若い人たちは山の食べ物のことを知らないし、山の食べ物のことを知らなければ、食べ物が手に入らない時に生き残れないんじゃないか。

 

 

年配のアイヌ女性の言葉が重いです。

 

 

草食の恐竜がシダ類を食べていたこと。

恐竜が絶滅してもシダ類は生き残っていること。

冬眠からさめた熊も野草を食べることなど、またまた知らないことを教えられました。

 

 

本書は2021年にアメリカで出版され、ワラビやフキ、タケノコなど、日本を代表する食べ物でありながら、西洋人に知られていない食文化を紹介しています。

 

 

『万葉集』『源氏物語』などの古典から『沢内年代記』といった文献にまで触れていて、筆者の幅広い知識と旺盛な好奇心に驚きます。

 

 

レシピや野草ガイドもついてます。

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。