ジャーナリストであり、小説家でもあったカレル・チャペック(1890-1938)の戯曲です。
チャペックはチェコスロバキアの作家で、「ロボット」という造語の生みの親でもあります。
90年以上続いている、グレゴル家とプルス家の遺産相続の裁判。
鍵を握った人物としてエミリア・マルティが登場します。
エミリアは美人で、劇場で歌うクリスティナに言わせると、世界一の歌手です。
知らない人がマルティのことをあれこれ言うべきではないの。みんな、あの人に夢中なんだから!みんなよ!
テーマは、長寿、不老不死。
不老不死の秘密を手に入れた登場人物たちは、ビジネスチャンスとばかり浮かれます。
長寿に値するのは「力ある者だけだ。きわめて有能な者だけ」という、プルスのセリフは著者の皮肉でしょう。
だって、死ぬのがとてつもなく怖いの。
この作品は喜劇で、エミリアのこのセリフの後、客席は大爆笑に包まれるに違いありません。
長生きすることはいいことなのか、歴史とはなにか、答えの出ない問題にどう向き合うか。
短い戯曲ですが、笑いながらぞくっとします。
演出家の鴻上尚史さんは、同調圧力のトリセツ(小学館新書)という中野信子さんとの対談本の中で、「最近の人は戯曲を読まない」というようなことをおっしゃってました。
戯曲は、声に出して読むとおもしろいです。
もちろん、私は絶世の美女で世界一の歌手、エミリア・マルティを演じます。
2022年8月10日
岩波文庫
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