著者は、韓国の美術大学で美術とブックアートを学んだ後、アメリカの大学院でブックアートと製紙を専攻したジェヨンさんです。
指導教授の勧めで、大学図書館附属の「書籍保存研究室」で書籍修繕のノウハウを学び、3年半で1800冊の蔵書修繕を担当、帰国後、ソウル市内に「ジェヨン書籍修繕」をオープンします。
本書は、書籍修繕家のジェヨンさんが、ふだんの仕事の中で気づいたことや、書籍修繕にまつわる思いをつづったエッセイです。
23冊の本の修繕にまつわるエピソードと、6本のコラムで構成されます。
傷んだ本をなおすに至るお話は、どれもこれも温かいです。
作業室をオープンしてはじめて担当した本
『‘89施行 改正ハングル正書法収録国語大辞典(上下)』
ジェヨンさんの修理道具
依頼人がローマに行ったとき
『ローマの休日』を買おうと思ったら、
売っていなかったので、
オードリー・ヘプバーンつながりで買った
『ティファニーで朝食を』
『さむがりやのペンギンパブロ』
『赤毛のアン』
結婚アルバム
結婚当時、貧しく
湿気のある所に住んでいたので
傷んでしまった。
33年後に、
ご主人がアルバムをきれいにして
奥さまにプレゼントしたいという依頼に
思わずじーんときます。
読みつぶした大切な漫画もきれいに修繕
書籍修繕家のジェヨンさんは本をどう扱うかというと、意外にも、「お構いなく下線を引く」「ページに目印をつけたいときは、ページをがばっと半分に折り曲げてしまう」「本が開きにくいときは背の部分をぎゅうぎゅう押し広げたりもする」「何かをつまんで食べていた手でページを触ったりめくったりするのも平気」「床に落として角がつぶれても気にしない」「重くて持ち運びが大変な本は半分に分割する」「大切にしてる本でも鍋敷きにする」と、ひえーという感じです。
それはジェヨンさんが本を大切にする方法で、これからもずっと本を愛していくための方法なんだそうです。
傷ひとつないきれいな本ではなく、自分なりの何かが刻まれている本、修繕のときもそういう傷跡はできれば残したいというジェヨンさん。(依頼人の注文にもよります)
ジェヨンさんの優しい人柄がにじみ出るような文章が、うまく日本語に訳されていて、ほのぼのします。
修繕された本の姿やそれよって鮮明になった記憶は、ゆらめく波に乗って、修繕家であるわたしにも、ネットで写真しか見ていない人たちにまでも伝わっていく。その波は、わたしたちが忘れていた昔の大切な記憶を呼び覚ます。鈍った感覚を目覚めさせる。
2022年12月25日
原書房
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