41歳で二児の父親、現役の郵便配達員が、東大へ!?
筆者の小川さんが、1997年、6度目の受験の後、東大へ合格し、郵便局で正規の職員として働きながら、4年で卒業した経緯をつづったドキュメントです。
小川さんは、1956年(昭和31年)生まれ。
現役時代、二浪して、明治学院大学社会学部に入学し、卒業。
証券会社、学習塾講師などを経て、江戸川郵便局集配課(現日本郵便株式会社)に勤務します。
1991年、働きながら、1年間の勉強ののち、東京大学を初受験。
自身は35歳、長男は4歳、二男が生まれたばかりのときでした。
朝の3時に起きて、英単語の参考書をひろげ、声に出して例文を読む。
もう少し時間があるときは、語学春秋社の『山口英文法講義実況中継』を読んでから朝食。
朝食をとりながら、新聞に目を通し、ビデオ録画してある映画を20分くらい観る。
JR目白から新小岩までの通勤電車の中では、『講義の実況中継』シリーズ(国、数、英、理、社)を毎日、とっかえひっかえ読む。
新小岩駅から江戸川郵便局まで、徒歩20分の間、FEN(米軍の極東放送)をイヤホンで聴く。
こんな暮らしを365日、ほぼ毎日続け、子どもと遊ぶ時間も確保しながら、6年で東大合格。
ここからが本番です。
全国から集まった若い優秀な学生に交じり、41歳、昼間の仕事をしながらというハンディ。
努力だけではどうにもならないものもあります。
一緒に学ぶ東大生がまた、親切で礼儀正しいです。
ノートのコピーをくれたり、なにかと筆者を助けてくれます。
彼らもまた、筆者の姿勢から学ぶところは大きかったと思います。
なにしろ、この人がすごい頑張り屋だから、まわりの人も応援します。
家族も職場の人も、みんな温かい。
「この人、東大生なんだよ」
職場の人も自慢です。
「おそらく、ほとんどの読者にとって、今までに一度も聞いたこともない、読んだこともない物語のはずです」と筆者がいうように、こんな人にはなかなかお目にかかれません。
教養課程の後、筆者が選んだのは、インド哲学。
私が知りたい、学びたいと思っているのは、私は今何をしたらよいのか、あのとき何をすればよかったのか、これから何をどうして生きていけばいいのか、ということである。
話題のリスキリングなどとは、一線を画した、切実な学びへの欲求があります。
学びを極めた先生たちとの、学問を通じた深い交流も、かいま見られました。
文庫版の解説は、東大の恩師だった丸井浩さん。
この人の解説も、また、おもしろいです。
丸井さんは「ただ学んでいく、それだけですばらしい」と、書かれています。
学ぶこと、まじめに生きることを肯定する、さわやかな読後感でした。
お読みいただきありがとうございます。