坪内祐三という人を知ったのは彼が亡くなった後で、この本を大きい本屋さんで見かけたときでした。

 

一度、気になるといろいろなところでお名前が目に入るようになります。

 

それらの印象から、もっと年配の人かと思っていたのですが、お生まれは1958年で、亡くなったのは2020年、61歳のとき。

 

本書を書かれた妻の文子さんは1964年生まれですが、出会う前はやっぱりもっとおじさんだと想像していたようです。

 

 

第一章は「亡くなった日のこと」

 

 

仕事が終わるといつも連絡してくる坪内さんから、「原稿が書けないんだ。帰るの、少し遅くなる」と電話があります。

 

いつもとようすが違っていたという文子さんの記述は、坪内さんが帰宅してから、救急搬送され、亡くなるまで続きます。

 

 

第二章 出会ったころ

 

 

お互いに恋人と配偶者がいた二人が一緒に暮らすようになったきっかけや、その暮らしぶりが述懐されます。

 

その中で浮かび上がってくる坪内さんという人物。

 

繊細で、他の人に気を配りながら、とても怒りっぽい。

 

めんどうくさいけどなんとも魅力的です。

 

坪内さんと前の奥さんとの関係、それにモヤモヤする文子さんの心情なども語られていて、よくここまで書けたなと思います。

 

 

文子さんの坪内さんに対する尊敬の念というのか、このたぐいまれなる人物と暮らした人間として、記録しておかなければという使命感さえ感じました。

 

 

坪内さんの生い立ち、仕事、交友関係など、記載される中で、やはり読みたくなってしまう本がたくさん出てきます。

 

常盤新平の『熱愛者』と坪内さんの『靖国』は読んでみたいです。

 

 

坪内さん自身は、図書館で見られる本はそれで構わないというタイプだったといいますが、挿入される写真では自宅も仕事場も本だらけです。

 

 

このひとは、いつかいなくなってしまうだろう。そんな予感が、出会ったときからあった。死別と生別、どちらがつらいだろうと考えたこともある。私が彼を見ているときも、彼は私の肩越しに遠くを見ているような気がして不安になった。(あとがきより)

 

 

 

 

2021年5月25日発行
新潮社

 

 

お読みいただきありがとうございました。