少し前の日経新聞に小説家の朝倉かすみさんの文章が載っていました。

 

うつ病を発症したという朝倉さんが治療前の様子を描写しています。

 

集中できる時間が短くなった。

とにかく気が散った。

 

同時に決断力が低下した。

 

大変に辛い。

迷いだすと時限爆弾を手渡されたようにすぐさま放り出したくなる。

 

そんな状態を「悲観的」という湿っぽくて陰気なフィルターが覆っていた。このフィルターを通して、世の中の出来事や、友人知人他人の言葉がわたしに届くようだった。そのどれもが――例えわたしと無関係の話題でも――、わたしは自分の劣等感を引っ掻(か)かれたり、ほじくられたりしたように捉え、落ち込んだ。

 

 

一連の変調を単に「元気がない」と考え、食べれば治ると思ったり、「認知症」を疑ったりしたという朝倉さんですが、結局、メンタルクリニックに通院し、服薬を始めます。

 

人に会うと明るく見せようと頑張って、なかなかよくならなかったそうです。

それでもゆっくりと回復し、再び小説が書けるようになったことが「何より嬉(うれ)しい」と書かれていました。

 

 

何を書いている作家さんだろうと思ったら、『田村はまだか』の人でした。

 

 

『一万円選書』の岩田さんの紹介で読もうと思っていた本でした。

 

 

 

 

 

札幌ススキノのスナック「チャオ!」

今夜の客は常連の太一が連れてきたメンバーです。

 

クラス会から流れてきて、おくれている田村という元同級生を待っている様子です。

ときどき「田村はまだか」とメンバーの1人が叫びます。

 

小学校時代のエピソードを回想する話がくり返され、田村少年の姿が浮かび上がります。

 

 

町はずれのボロ家に住む田村少年はいつも誰かのおさがりのジャージを着ていました。

頭はまだらな角刈りで、無口です。

 

母親は、授業参観にとっかえひっかえ違う男を連れてくるようなだらしない女です。

 

イジメられていたのかなと思うと、そうでもありません。

 

小柄だけど勉強もスポーツもできた田村少年は、無口でかっこいいのです。

 

読者の私も、いつの間にか田村君が現れるのを心待ちにしてしまいます。

 

 

田村はまだか

 

 

小説は連作の短編からなり、少しずつ同級生たちの事情が明かされていきます。

 

40歳。

 

人生80年なら折り返し地点でしょうけれども、人生100年ならもう少し登りたいところでしょうか。

 

不惑どころか迷いに迷うメンバーたち。

 

 

さて、田村は現れるのか。

 

 

朝倉さんの描写は鋭くて、ドキッとする言葉もあるのですが、読後はとても爽やかでした。

 

伏線も楽しめます。

 

 

お読みいただきありがとうございます。