3月の読書メーター
読んだ本の数:32


洪水洪水
「それはまるで伝染病だった」最初の一文にドキッとする。新型ウイルスの話ではない。喪失と破局の物語。どことは特定されない都市(おそらくパリ)での誰とも特定されない「わたし」の物語は、誰もが逃れられない、「いずれだれもがいなくなる」という事実を突きつける。ところが、これがなぜか心地よいのだ。日常の中に慰めを見出し、なんとか正気を保っていくしかないのだ。
読了日:03月31日 著者:フィリップ・フォレスト


あの時、バスは止まっていたあの時、バスは止まっていた
警察が隠蔽するのはわかる(わかりたくないけど)。検察が絵を描くのもわかる(これも同じ)。だけど、裁判所は何をやっているの。あと、地元報道機関。バスに乗っていた子どもたちの心に「世の中は信用できない」という生きた教育を施してしまった。
読了日:03月29日 著者:山下 洋平


ルポ 自助2020- ――頼りにならないこの国で (単行本)ルポ 自助2020- ――頼りにならないこの国で (単行本)
高齢者施設、六本木、保育園、児相、定時制高校・・・新型コロナウイルス感染症によって苦境に陥りながら、「自助」の名のもとに自らがなんとかしなければならなかった人たちを取り上げる。病児保育の現場、難病の子どもたちやその親、きょうだい。日頃から大変だった人たちがより大変になるのが非常時なのだ。実態を少しだけ知ることができた。
読了日:03月28日 著者:石井 光太


一万円選書: 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語 (ポプラ新書 い 10-1)一万円選書: 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語 (ポプラ新書 い 10-1)
取次から送られてきた本をただ並べるだけの本屋にはやりがいがない。本が売れない時代にはじめた1万円選書。鳴かず飛ばずの時期が続いたが、深夜番組をきっかけにブレイク。今では募集をするのは年に7日間だけ。そこから毎月ランダムに選ばれた100名だけが岩田さんに本を選んでもらえる。実店舗にも岩田さんが選んだ本が並ぶ。行ってみたくなる本屋さん。
読了日:03月27日 著者:岩田 徹


モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
「何もない村。食うに困る暮らしだった。でもだからこそ、村は今でも生きている。貧しかったおかげで、先人たちは村を出て国境をも越えていった。命を懸けた行商が、勇気と本とイタリアの文化を広める結果へとつながっていったのです」一気に読んでしまったが、静かな感動が心の中でじわじわ広がる。
読了日:03月27日 著者:内田 洋子


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)
カツアゲでお金を渡すのは自発的なのか。縛られて奪われる強盗と違って自分で渡しているが、それは自分の意志と言えるのか。「やったのか」「やらされたのか」つまり、能動態でも受動態でもない中動態の世界を我々は生きているという。私たちは意外と自分の意志で行動していない。気質や人生、社会といったものに拘束されている。そのことを自覚し、少しでも自由に近づくために、この概念が必要なのかな。読後感は清涼。
読了日:03月25日 著者:國分功一郎


血流がすべて解決する血流がすべて解決する
満腹より空腹。朝食抜きは西洋的。夕食断食で内側から若返る。「一週間夕食断食」によって胃腸の働きを改善。血流不足にはマクロビNG。血を増やしたければ鶏肉。23時までに寝る。「三陰交」「血海」でむくみを改善。筆者は出雲大社の門前で大正時代から続く老舗漢方薬局の四代目で婦人科系の分やを専門としている。参考になった。
読了日:03月24日 著者:堀江 昭佳


教養としてのギリシャ・ローマ: 名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄教養としてのギリシャ・ローマ: 名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄
米コロンビア大学で行われているリベラルアーツ課程を概観。トゥキュディデス『戦史』、プラトン『国歌』などを引用しつつ、ギリシャからローマ、中世キリスト教支配の時代、ルネサンスへと歴史をたどる。節が短く、気持ちよく読めた。物足りなさは感じたが、わかりやすさを優先したのだろう。
読了日:03月21日 著者:中村 聡一


超・箇条書き超・箇条書き
忙しい上司や顧客に一瞬で伝わるメール、プレゼンのコツ。基本は①構造化、②物語化、③メッセージ化。「超・箇条書きとは、言葉遊びでも、単なる技術でもなく、相手のことをとことん考える作業でもあるのだ(P127)」「無難を選ぼうとする自分が最大の敵」事務は拙速を旨としていたが、仕事のメールは工夫の余地あり。読書メーターの感想やブログを書くときにも役立てたい。
読了日:03月21日 著者:杉野 幹人


【至急】塩を止められて困っています【信玄】【至急】塩を止められて困っています【信玄】
歴史ネタをモチーフにしたパロディ?「『敵に塩を贈る』で留守だった場合の不在連絡票」「織田信長のLINE トーク一覧」「小早川秀秋の退職メール」など、爆笑。
読了日:03月21日 著者:スエヒロ


死んでも床にモノを置かない。死んでも床にモノを置かない。
床にモノを置かない。キッチンにモノを置かない。汚れる前に拭く。全部このとおり。スボラな人こそ、こうすれば楽にスッキリ暮らせる。
読了日:03月21日 著者:須藤 昌子


榛野なな恵作品集 卒業式 1 (クイーンズコミックス)榛野なな恵作品集 卒業式 1 (クイーンズコミックス)
「平凡が一番とかそれが自然なんていう言葉は壁みたいなものだと思う。そこで思考をストップさせてしまう都合のいい壁」セクハラ教師を糾弾する女子中学生の用意周到な行動。ありえないと思うがかっこいい。忘れたくない清さだ。
読了日:03月19日 著者:榛野 なな恵


家康、江戸を建てる家康、江戸を建てる
実際に建てたのは家康ではなく、官僚や名もなき人々。利根川東遷の話が壮大で興味深かった。
読了日:03月19日 著者:門井慶喜


セーラー服の誕生: 女子校制服の近代史セーラー服の誕生: 女子校制服の近代史
セーラー服を最初に取り入れた学校はどこだったのかについて、福岡女学院と平安女学院との間で論争があったらしい。筆者はそれを決定するにはセーラー服とは何かという定義と多くの学校の調査が必要だと主張。実際に900以上の学校を対象に各地でセーラー服がどのように普及していったかを分析する。よくぞ集めたというセーラー服や昔の写真。「日本史の専門分野での初めての学校制服史」と自負するが、そのとおりだと思う。労作です。セーラ服、ああ、懐かしい。
読了日:03月18日 著者:刑部 芳則


アウトロー・オーシャン(下):海の「無法地帯」をゆくアウトロー・オーシャン(下):海の「無法地帯」をゆく
上巻に引き続き重い内容。新たな石油採掘場を求めて、海へもぐる巨大企業とそれを暗黙に認める消費者(私のことだ)。タイの漁船で搾取されるカンボジアとミャンマーからの出稼ぎ労働者。豪華クルーズ船から垂れ流される生活排水。地球の7割を占める海は無法地帯。「月の裏側に比べたら、海の底なんてまだ全然知られていない」知られていないことは一部の企業にとって好都合なのだ。
読了日:03月18日 著者:イアン・アービナ


春のこわいもの春のこわいもの
マスクをしている人としていない人が半々ぐらい。ああ、時は緊急事態宣言の少し前なのだ。感染症のため、お見舞いができなくなってほっとしているでしょうとか、ちょっとドキッとする言葉が著者らしい。顔面全部整形しているマリリンを描写する言葉もものすごい。懐かしい春の匂いがする。
読了日:03月17日 著者:川上未映子


ハイジャック犯をたずねて;スリランカの英雄たちハイジャック犯をたずねて;スリランカの英雄たち
30年以上前に自分がまきこまれたハイジャック事件の犯人に会いに行く。なんで?ちょっと読んだことのない本だった。スリランカについても詳しい記述があり、興味はなかったがテロ事件や内戦の歴史など、この本を読まなければ知らなかったことを学べた。
読了日:03月17日 著者:和田 朋之


茨城 古民家・レトロめぐり旅 こだわりの空間とすてきなお店へ茨城 古民家・レトロめぐり旅 こだわりの空間とすてきなお店へ
古民家をリノベしたカフェなど、の~んびりできそう。
読了日:03月16日 著者:ゆたり編集室

 


建築家夫婦のつくる居心地のいい暮らし建築家夫婦のつくる居心地のいい暮らし
気に入ったダイニングテーブルを入れたら身動きが取れないような狭いアパート暮らしの頃から、事務所兼自宅を建てた今もその家具を使い続けているのがすてき。「器としての家の役割は確かに大きいが、「居心地のいい暮らし」を考えるときにもっと大切なのは、暮らす人の生活がその住まいにうまく馴染んでいくこと」
読了日:03月15日 著者:八島正年+八島夕子

 


書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト
阿佐ヶ谷の狭小住宅に1万冊の本を収めるプロジェクト。敷地面積わずか8.68坪の土地に仏壇と書斎、キッチンに寝室まであるぞ。建築家の堀部安嗣さんとの出会いも運命的。カフェを営む奥様があってのことだった。松原さんの文章力がなければ、ここに至る経緯を残すことはできなかっただろう。
読了日:03月15日 著者:松原隆一郎,堀部安嗣


告白告白
国策で満州にわたった開拓団。戦後、取り残され、中国人からの襲撃を受ける。岐阜県黒川開拓団が取った手段は、娘たちをソ連兵に差し出して護衛してもらうことだった。長く口を閉ざしてきた女性たちの証言と取材から明らかになる実態。死ぬか、犠牲になるか。関係者の家族の写真が巻末に載せられている。命があってよかったと思うが、そもそも開拓団がなければ、戦争がなければという思いはぬぐえない。
読了日:03月11日 著者:川 恵実,NHK ETV特集取材班


台湾対抗文化紀行台湾対抗文化紀行
2011年に初めて行った台湾に魅せられた著者による、ここ10年の台湾の紹介。カウンターカルチャーやサブカルチャーについては正直よくわからなかったが、わちゃわちゃした感じは伝わってきた。台湾の若者が政治にすごく関心がある理由も。日本人が大人でさえ政治に無関心でいられるのは、ある意味幸せなことなのだろう。
読了日:03月10日 著者:神田桂一


You are what you read あなたは読んだものに他ならないYou are what you read あなたは読んだものに他ならない
常々思うことだが、書評は評者の生き方があらわれる。本を読んでるだけの書評とはひと味違うサバイバル登山家の書評。
読了日:03月10日 著者:服部文祥


日本移民日記日本移民日記
繊細だ。若さゆえなのか、ラッパーの感性なのか。外国人だからとは思いたくない。○○人ではなく個人として、全ての人と知り合うことはできないけど、本との出会いも大切に、誠実な文章を読んで考える。そこから始まる関係はあたたかいものになるといい。
読了日:03月09日 著者:MOMENT JOON


言の葉の森――日本の恋の歌言の葉の森――日本の恋の歌
日本の文学を韓国語に翻訳する著者による65和歌をテーマにしたエッセイ。「身を捨てて/ゆきやしにけむ/思ふより/ほかなるものは/心なりけり」の項では、「家出」と題し、「心は思いどおりにならないものだから、身体が追いかけていくよりほかはないのだ。心が家出した身体は、すぐにさびつく」身体が追いかけてやってきた日本で文学を研究。「石ころだと思っていた心が、どこに伸びていくかわからない木の種であったことに、ようやく気づいた」豊かな表現に心が緩む。
読了日:03月08日 著者:チョン・スユン


捨てない生きかた (マガジンハウス新書)捨てない生きかた (マガジンハウス新書)
「断捨離」という言葉が好きじゃない。捨てることがよしとされるこの時代、あえて何も捨てない筆者の生き方もいいと思う。私自身は身軽に暮らしたいのでモノとのつき合い方は淡白だが、捨てない人が罪悪感を感じるような風潮には疑問を感じる。死んだ後、残された人が困るって?そんなの知るか笑
読了日:03月06日 著者:五木寛之


かめれおん日記 (灯光舎本のともしび)かめれおん日記 (灯光舎本のともしび)
日経の文化面に載せられた折原一(異母妹澄子の子)さんの紹介で読んでみた。中島敦は『山月記』『弟子』『李陵』のような作品しか読んだことがなかった。『マリヤン』も『幸福』もよかったが、『かめれおん日記』のような私小説的なものは意外だった。ぜんそくのため33歳で病没。残された作品は未完も含め20篇足らず。
読了日:03月06日 著者:中島敦


だんまり、つぶやき、語らい じぶんをひらくことばだんまり、つぶやき、語らい じぶんをひらくことば
「語る」は「騙る」。「語る」ことによって記憶は脚色されて人は過去をつくり出していく。「ことば」はめんどうだけど、ことばがあることによって、人は自分の気持ちをあらわすこともできる。2020年10月、コロナ禍の中、愛知県立一宮高校で行われた鷲田先生の講演の記録。深い話をやさしい言葉で語る。「だまる」ことを知っているからに違いない。
読了日:03月05日 著者:鷲田 清一


レゴ――競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方レゴ――競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方
1916年木工家具工房として始まったレゴの歴史とその強みを知ることができる。第二次世界大戦後、ドイツの玩具メーカーに代わりシェアを伸ばし、1947年には現在の源流となる事業が始まる。その後、ファミコンの台頭、ブロックの特許切れにより安価な製品が広まるなど、苦境に陥るが、2010年からの10年間で売上げは3倍、玩具メーカーでは世界一、コロナを追い風にさらに加速しているという。黄色4種、赤2種のブロックでアヒルを作るとすると、その組み合わせは9億通りにもなるという。「正解は一つではない」
読了日:03月04日 著者:蛯谷 敏


吉永小百合 私の生き方吉永小百合 私の生き方
期待を裏切らない内面の美しさと誠実さ。小さな出会いを大切にする姿勢も魅力的。何を演っても吉永小百合だと思っていたが、その人になりきろうとする姿が演技ではなく自然だからなのだと気づいた。
読了日:03月03日 著者:NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」制作班 築山卓観


半歩遅れの読書術〈2〉私が本当に伝えたいこの一冊半歩遅れの読書術〈2〉私が本当に伝えたいこの一冊
〈1〉と同時発行。評者は、長谷川眞理子、立花隆、河合隼雄、田辺聖子、城山三郎、隅研吾など豪華。入手できてよかった。

読了日:03月02日 

 


半歩遅れの読書術〈1〉私のとっておきの愉しみかた半歩遅れの読書術〈1〉私のとっておきの愉しみかた
日経読者だが、この本の存在を知らなかった。筆者は一流の本読みばかり。荒川洋治、別役実、長田弘……。坪内祐三さんの「漠然と読む」で紹介されるのは「座談集『蔦魚江戸学』(中央公論社)」漫然と目を通し、繰り返し楽しむ。この本もそういう類いの本だ。
読了日:03月01日 
 

お読みいただきありがとうございました。