2020年4月7日、新型ウイルス感染症対策のため、東京、神奈川などの7都府県に緊急事態宣言が出され、16日には対象が全国に拡大されました。
もうすぐ2年になります。
新型ウイルスは私たちの暮らしを変えました。
影響をまったく受けなかった人はいないのではないでしょうか。
とはいえ、コロナ禍でより窮地に立たされたのは、弱い人、助けを必要とする人たちでした。
高齢者、子どもを保育園に預けなくてはいけない親たち。
家に居場所のない子どもたち、難病の子どもたち・・・
倒産、虐待相談件数や学校中退者の急増、女性や若者の自殺率の上昇など、今も続く重い問題があります。
本書を読んで感じるのは、一部のマスコミの無責任な報道に対する憤りと、行政は肝心なときに、まるで役に立たないことがあるんだなということです。
横浜市の私立保育園では、保育士が新型コロナウイルスに感染していたにもかかわらず、市が感染の事実を保護者に伝えないよう園に求めていました。
感染者がいるのに園児を受け入れれば、クラスターが起き、人命にかかわる事態に発展しかねません。
園長の菱川さんは休園にするよう市に訴えますが、担当者は休園にはしない、保護者には伝えないの一点張りです。
菱川さんにとって、保護者に事実を伝えずに子どもたちを預かる、という選択はありませんでした。
園の判断で情報開示をすることにし、理事長も同意します。
のちに、この事実に気づいたマスコミが一斉に報道を始めます。
多数の記者がインタビューしようと押しかけますが、園長は沈黙を守りました。
園長は言います。
保育園の主体は、そこに通う子供たちですよね。市も区も園も、本来はみんなで足並みをそろえて、子供たちの将来を素晴らしいものにしていかなければなりません。コロナ感染を公表するとか、休園するとかいったことは、そういう観点からすれば当たり前の対処なのです。残念ながら、今回はそれがズレてしまったわけですけど、だからといって私たちがメディアを使って市や区の批判をするのが正しいとは思えません。
コロナ禍によって、これまで以上に世の中のひずみが明らかになりました。
本書は、苦境に追い詰められながらも、困難な状況をなんとかしようとした人たちを取り上げることによって、希望がもてる内容になっています。
私たちは新型コロナによって多様な業界で何が起き、どう向かおうとしているのかを総合的に認識する必要がある。自分のいる狭い世界だけでなく、社会を俯瞰して理解することで初めて、これから日本が全体としてどこへ向かっていけばいいのか、そのためには何が必要なのかということがわかる。
2022年1月30日発行
筑摩書房
お読みいただきありがとうございました。