1981年から、この本が書かれた2003年まで、ずっと日記をつけてきたという阿久悠さんの『日記』の本です。
阿久悠さんの日記のつけ方は独特。
毎日、自分のアンテナに引っかかったことをメモにして、それを夜に日記にまとめます。
日記は「アンチロマン」
苦しみも、悲しみも、悩みも排除します。
メモに残すのは、政治、スポーツなどさまざまで、こだわるのは数字。
「文章の中に数字が書いてあるかいないかによって、ただのおっさんが怒鳴っている意見なのか、そうではなく一応考えた意見なのかというほどの差が生まれてくる」と言います。
オークションにかけられた絵の値段から、日経平均まで気になったことを書き残します。
「たかが日記とはいえ、あくまでオリジナリティのある日記にしたいと思いました」という阿久悠さん。
誰もやらない日記を書くために役立ったのは、自分が作詞家になるときにつくった「作詞憲法十五カ条」
1、美空ひばりによって完成したと思える流行歌の本道と、違う道はないものであろうか。
2、日本人の情念、あるいは精神性は、「怨」と「自虐」だけなのだろうか。
3、そろそろ都市型の生活の中での、人間関係に目を向けてもいいのではないか。
家じゅう、あちこちに置かれたメモの中から、日記に残すのは1ページ。
ネタにして5つぐらいです。
自分が重要と思った順に書いていきます。
当時、10本の連載を持っていたという阿久悠さんが、歌のタイトルから、コラムの書き出しまで、書くネタは日記をひもとけばいくらでも出てくるといいます。
人は大きな変化には気づきますが、少しずつ変わっていくと気づかない。
毎日、日記をつけることによってそうした変化にも気づくことができるというのは、そのとおりだと思いました。
出版されたのは2003年ですが、このときにはもうインターネットで情報を拾うことができていたんですね。
阿久悠さんは、「情報化社会といいますが、全員が同じ情報を得るということですから、逆にいえば、情報がないのと一緒です」と言ってます。
他のみんなと同じ情報に流されるのでなく、日々の生活の中で、自分の日記にしか書けないだろうというものを見つけ出す、それが人間の感性そのものということになっていく。そうして書いたものが、自分の役に立つのであれば、こんな良いことはありません。
掲載されている阿久悠さんが作詞した歌は『時代おくれ』と『時の過ぎゆくままに』
阿久悠さんは「僕は歌番組の中で昭和歌謡曲を取り上げたとき、『懐かしい』と思われても、うれしくもありません、『今聞いても、最高に新しいね』と感じてもらわないかぎり、どんなに流行ったとしても意味がないんですよといった」といいます。
今聞いて、最高に新しいとは思わないけど、どちらもいいなと思う歌です。
2003年6月20日第1刷発行
講談社
定価:780円(税別)