19世紀のはじめ、都市で暮らす人は全人口のわずか3%でした。
今では50%を超えているといいます。
この数字は今後30年以内に70%に上昇することが予想され、アメリカではすでに人口の80%が都市に暮らしているそうです。(112~113ページ)
ある環境科学者によると、人間が建物の密集した大都市で暮らすようになったのはごく最近で、わずか6世代かそこら。
対して、35世代にわたって、自然と密接な環境で暮らしていたと算出しています。
「人類の歴史を月曜日から始まる1週間に例えると、現代の生活は日曜日の真夜中、12時3分前に出現した」といえます。
自然から離れた暮らしは、人々を疲弊させます。
野生で生き残るための集中力は、人込みでむだに発揮され、街を歩くだけで人をぐったりさせます。
ガーデニングが心身をリフレッシュさせ、心の健康を取り戻すのに役立つことは知られていますが、本書では、庭仕事がもたらした有益な結果がたくさん紹介されています。
刑務所や貧困家庭の子どもたち、病院などでの事例です。
慈善団体のプロジェクトに参加した復員兵士のエディーは、18歳で入隊し、常に「用心深く」なければならない環境に「神経過敏」になり、アルコールで自己解決をするようになりました。飲酒はエスカレートして、結婚は破綻。
ガーデニングをはじめても、周囲に心を開くことはありませんでしたが、彼がほとんど1人で耕した荒れ果てた土地が美しい花壇に変わるのを見て、ゆっくりと回復のプロセスへと向かっていったそうです。
自然の中ではすべてが関係し合っている
興味深かったのは、研究者が「田舎のネズミ」と「町のネズミ」と呼ぶ、実験用ラットを使った環境に関する研究です。
ラットは何もないケージの中に入れられると、ほとんど互いに関心を払わない「ゾンビのような行動」をとるのだそうです。プラスチックなどの人工的なトンネル、はしごなどを入れると、より活動的で社会性も見られるようになります。
しかし、ケージの中に土や木の枝、切株や丸太などを入れたラットは、ストレスからの回復が早く、他のラットに対しても社交的で、何より健康的で、ラット自身が明らかに喜んでいたそうです。
何世代も実験室で飼育されたにもかかわらずです!
ほかにも、マンチェスターのトッドモーデンではじまった、インクレディブル・エディブル(町じゅうが食べられる庭)の取組や老化や病気、愛する人の死という危機に対処するために、植物がどんなふうに私たちを支えてくれるのか、多岐にわたる内容です。
筆者のスー・スチュアート・スミスは、心理療法士。
夫はガーデン・デザイナーです。
実際の庭の様子が美しい言葉で描写され、読んでいるだけで気持ちが穏やかになります。
本を読むと大抵リラックスするのですが、この本の癒し効果はちょっと体験したことのないものでした。
部屋に花を飾り、何か植えられるものはないかと思いめぐらし、週末は緑の多いところを歩こうと、わくわくしてきます。
2021年11月10日初版発行
築地書館
定価3200円+税