1990年代、スコットランド政府が地方都市再生のために打ち出したブックタウン構想に名乗りを上げた6つの都市から最終審査に勝ち残ったウィグタウン。
2001年、30歳のショーンは、生まれ故郷のウィグタウンで、クリスマスの帰省中にふらりと入った古本屋を銀行ローンで衝動買いしてしまいます。
それから20年、ショーンの店「ザ・ブックショップ」は10万冊の在庫を擁するスコットランド最大の古書店となり、ウィグタウンには世界中から本を愛する観光客が訪れるようになります。
この本は、ショーンが、2014年2月から1年間書きつづった日記をまとめたものです。
日記は「ネット注文数6」「在庫確認数5」という記述で始まり、
「本日の売上額46ポンド」「顧客数4」で終わります。(数字は日によって変わります)
本を書く前にフェイスブック・アカウントをつくったというショーンは、計算づくでリスクを取ろうと決め、客の行動、それもとくにアホな質問とか無礼なコメントに焦点を当てることにしたといいます。
フォロワーたちの多くは本屋で、客について酷いことを書けば書くほど喜ぶようになったそうです。
店に訪れる変な客。
例えば、フランス人でもないのにフランス語を話す人とか、自分がいかに本に詳しいかを披露しに来るだけの買わない客もたくさんいて、3ページに1回ぐらい笑えます。
店主も変わり者らしいのですが、週2日勤務するニッキーもユニークな人です。
ニッキーはエホバの証人で、毎週金曜日、キングダム・ホールの集会後に、モリソンズ・スーパーマーケットの廃棄物ボックスから拾ってきたおやつを持ってきてくれます。
『種の起源』をフィクションの棚に差してしまうので、ショーンは仕返しに『聖書』を小説の棚に入れるのだそうです。
店にとっては本と同じぐらいなくてはならない存在で、彼女がいなければ店の魅力が半減してしまうというのは、皮肉なのか本心なのかわかりません。
Amazonの脅威など、多くの本屋さんが直面している問題にも触れられます。
万引きには気づいたことはないそうです。
監視カメラを置くくらいなら、本がなくなるほうがいいとショーンは言います。
「1984」じゃあるまいしと。
各章の冒頭に引用されるジョージ・オーウェルの『本屋の思い出』も興味深いです。
2021年8月10日発行
白水社
定価(本体3000円+税)