かつて、スウェーデンの首都ストックフォルムでは、市内を走る市バスや地下鉄の広告を掲げるスペースに、世界各国の詩をスウェーデン語で紹介するという試みがなされていたのだそうです。
乗客の憩いのためです。
スウェーデンで孤独に満ちた生活を送っていたという筆者の目を引いたのは、こんな詩でした。
「あなたはひとりぼっちで歩いているんじゃない」
(カール=ヨーナス=ロヴェ・アルムクヴィスト)
もし幾千の星の中で
たった一つあなたを見ている星があったら
その星の意味を感じてごらん
その目の輝きを思ってごらん
あなたはひとりぼっちで歩いているんじゃない
その星には幾千もの友がいて
皆があなたを見ているのだから
その星のためにあなたを見守っているのだから
あなたは幸運で幸福だ
今夜は天があなたを包んでいるからだ
この詩を読んだとき、孤独感に押しつぶされそうだった筆者の目にぶわっと涙があふれ、帰宅してからインターネットで調べて、ストックフォルム市交通公社の詩のプロジェクトで紹介されていた1冊の本を手に入れたそうです。
その中にフィンランドの詩人、エディス・セーデルグランの詩がありました。
エディスは、フィンランド、スウェーデン両国にファンクラブを持つ偉大な詩人です。
国語の教科書に載り、図書館でもその詩集の多くが貸出し中になっているそうです。
1892年、ロシアのサンクトペテルブルクで生まれたエディスは、その3か月後、コレラのまん延により、フィンランドのライヴォラに引っ越します。
中世から近世にかけてのフィンランドは西の隣国スウェーデンの一部でした。19世紀初頭までスウェーデンの法律が適用され、スウェーデン語を話す上流階級が、フィンランド語を話す一般庶民を支配してたというややこしい歴史があります。
さらに1809年には、ロシアに割譲され(割譲ってすごい)ロシア皇帝がフィンランド大公国の主君を兼任する形になります。
その後のロシア革命によって、フィンランドは独立が認められますが、国内では社会主義者と保守派の対立が深まり、内戦が続くという、そんな時代に生きた女性です。
17歳で結核を発症。
生きているうちに作品の価値が認められることはありませんでした。
「動物の賛歌」
赤い太陽が昇る
何も考えることなく
すべてのものに平等に
私たちは太陽を子どものように喜ぶ
いつの日か
私たちの遺骨が粉々になるときが来る
その時も同じ
太陽は今私たちの心の最も内側の端を照らす
すべてを思考なしに満たす
森 冬 海のように強く
エディスが暮らしたラヴィオラ村は、戦争で何もかも焼き尽くされてしまったそうです。
どこにもない国に生きた詩人のどこにもない国は、今はどこにもありません。
ニーチェにかぶれて、革命を身近に感じ、恋に恋して、32歳で亡くなったエディス。
生前は生意気とも言われたその詩は、少女趣味だったり、自信に満ちていたり、筆者の三瓶さんがとりこになったとおっしゃるように、とても人間的で、魅力的なのです。
2011年2月25日初版発行
冨山房
定価(2800円+税)