サンゴが動物だということを知りませんでした。
サンゴとサンゴ礁の違い?
違うんですか。
サンゴは赤ちゃんのときは柔らかいお肉だけの体で、成長すると、石灰質の硬い骨を体の中につくりはじめ、さまざまな体型をした大人のサンゴになるそうです。
サンゴや星の砂(有孔虫)が死ぬと、その死骸の上には同じような生き物がくっついて暮らしはじめ、彼らもやがて死に、そこにまた生き物が棲みはじめ、長い年月をかけて、生き物の遺骸が積み重なってつくられた地形をサンゴ礁と呼ぶのだそうですね。
著者の大久保奈弥(なみ)さんは、サンゴの生態、サンゴが卵から赤ちゃんになるまでの変化、どうやったらサンゴを守れるかについて研究しています。
ヒメサンゴを語り手として、サンゴはどこにいるか、どんな仲間がいるのか、妊娠、出産、日々の暮らしといった、神秘的な、興味深い世界を紹介してくれます。
1970年以降、サンゴ礁は開発によりどんどん破壊されてきました。
1970年ごろから1991年までのあいだに、沖縄本島では1224ヘクタールものサンゴ礁生態系が消滅したとの調査結果もあります。
埋立てや沿岸開発により、沖縄本島には自然の砂浜がほとんど残っていないのだそうです。
それでも、いまなお、沖縄では、ホテルやショッピング街、人工ビーチの開発が進められています。
「今さら」といふことば
我は使ふまじ
今生きてゐる 今が人生
本の刊行を待たず、今年急逝されたという筆者のお母さまの歌です。
青年期に経済的な理由で大学に行けなかった筆者のお母さまは、退職後、62歳で大学に入学し、京都の学生アパートに独り住みながら、勉強を楽しんでいたそうです。
そんな母親の人生観を受け継いだ筆者は、ドイツ文学や哲学の講義を受けながら、一般教養で生態学の授業を受けておもしろいと思い、東洋水産大学の修士課程に進んだ経歴を持ちます。
この本を通してみなさんに伝えたいのは、私たちヒトを含めて、生き物は多様な暮らし方をするのが当たり前なのだということです。友だちと同じでなくともよい。ありのままのあなたが好きなことを大切にしてください。
それがもしできたら、次に、あなたの周りの「世間」だけでなく、「社会」についても考えてみてください。社会で立場の弱い人びとや、人間の暮らしの犠牲になるサンゴなどの生き物たち。彼らの気持ちに寄り添うことのできる人間が増えれば、あなたを含めた誰もが生きやすい、優しい社会がつくられると信じています。
2021年5月28日第1刷発行
岩波書店(岩波ジュニアスタートブックス)
定価(1450円+税)