昭和53年7月7日~10月6日まで東京放送で14回連続放映されたドラマのシナリオです。

ごらんになった方もいらっしゃるかもしれません。

 

 

【あらすじ】

黒沼家は東京郊外にある裕福な家庭。

主人の黒沼謙造(三國連太郎)は、大手建設会社に勤めるサラリーマン。

17歳年下の朋子(浅丘ルリ子)は、前妻(加藤治子)が姑のいじめに耐えられず出て行った後、入った後妻。

 

姑を見取り、舅(志村喬)に仕え、血のつながらない2人の息子、杉男(三浦友和)と竜二(田島真吾)を育て上げた。

 

ある日、息子たちだけでなく、夫も前妻の経営するバーに出入りしていると知り、離婚覚悟で家を出る朋子。

友人の時子(吉行和子)の家に転がり込む。

時子と不倫関係にある門倉(伊藤孝雄)は朋子に興味を持ち、長男の杉男も朋子に気があるようで……

 

おじいちゃんにも再婚したいお相手(宝生あや子)がいて、複雑な過去と人間関係の中、ドラマが展開し、意外な結末が。

 

 

 

さすが向田邦子ですね。

シナリオを読むだけでも、ドラマの世界が広がります。

名場面、名台詞がいっぱいです。

 

結婚当時、叔父の家に同居していて、広い家に住みたかったという朋子。

謙造への愛ではなく、打算で結婚したという彼女に門倉が言います。

 

門倉「違うな、それは」

朋子「?」

門倉「人間てやつは、いい方にも自分を飾るけど、悪い方にも飾るんだなあ。『露悪』もかっこつけてることにかわりはないですよ」

朋子「そうかしら」

門倉「あなたは広い、黒沼の家に惚れたと思ってる。女は、入れものだけには惚れないんだ」

朋子「でも、あたし、たしかに」

門倉「建物の中には、必ず、男がいるんです」

朋子「—」

門倉「いま、ここにご主人がおられたら、きっとこう言ってるんじゃないかな。お前は、あのうちに惚れたんじゃない。オレに惚れたんだ」

朋子(ナレーション)「この人の目は、油を塗ったように光ることがある。どこかで見たと思ったら、強引に結婚を申し込んだ時の、夫の眼と同じだった」

 

 

医者の杉男が勤める病院で患者が亡くなったとき。

●廊下(あけ方)

誰もいない病院のあけ方の廊下。

杉男(ナレーション)「四歳の女の子が息を引き取った。こういう時、病院の廊下は、細長い『ひつぎ』のように思える。あたたかいものに触れたい。やわらかい声を聞きたい。誰かの胸に顔を埋めて、ひよこのように眠りたかった」

 

 

旧約聖書「ロトの妻」を題材に書かれたという辛口のホームドラマ。

 

悪徳の街ソドムとゴモラを滅ぼそうとした主は、善良なロトとその妻、二人の娘に「逃れて汝の命を救え。ただし、うしろをかえりみることなかれ」という。

四人は火と硫黄の降るソドムの街をあとに走り逃れるが、ロトの妻だけは、神の掟にそむいて、うしろをふり向いてしまう。そして、塩の柱になってしまうというお話。

 

家を出た朋子に、杉男は「振り向いちゃだめだ」と言います。

 

男は男らしく、女は女らしくの世界が色濃く残る昭和のドラマですが、

人間の中身はさほど変わっていないような気もします。