『嫌われる勇気』で有名な岸見一郎さんのお父さんが認知症と診断されたのは2009年。
在宅介護の期間は1年半でしたが、執筆や講演の仕事をセーブせざるを得ず、父親の理解不能な行動に「認知症のせい」と頭でわかっていても、苛立つこともあったといいます。
それでも、アドラー心理学を学んでいたことが、自分の精神状態を安定させ、父との関係を優良に保つために役立ったということです。
うまくいかない
それが当たり前
アドラー心理学では、人間の行動の原因ではなく目的に着目し、人は過去の経験や環境によって決定されるのではなく、自分の生き方をいつでも変えられると考えます。
アドラー心理学を学ぶと、他人からの評価を気にしたり、他人を支配しようとしたりする精神状態からも解放されます。
例えば、「人間は誰しも承認欲求がある」とよく言われますが、誰にでもある欲求ではなく、真に自分に価値があると思う人は「他人に認められたい」とは思わなくなるそうです。
岸見さんが父親との介護で心がけたのは「不完全な介護でもいい」と割り切る勇気を持つことでした。
実際に介護してみると、うまくいかないことばかり、自分を責めたり、落ち込んだりしていては介護はできません。
くれぐれも自分を追い詰めないことが大切だといいます。
子どもは親が幸せになるのをサポートすることはできても、親を幸せにすることはできませんというのは、言われてみればそうですよね。
一期一会
衰えていく親を見るのは、つらく悲しいことかもしれません。
そんなときは、毎日、初めてこの人に会うのだと思って、一日を始めるといいでしょうと勧められています。
今日初めて会うと思って、今、目の前にいる人と仲良く過ごそうと思うと、心穏やかに優しく接することができるのだそうです。
親を「ほめる」のも避けましょう
アドラー心理学では、ほめるのは対人関係の構えが縦関係なので、好ましくないとされています。
ほめるのは、下に見ているからという捉え方ですね。
親は子どもに下に見られて気分のよいものではないはずです。
アドラーでは、ほめるのではなく「ありがとう」です。
「●●しなさい」という命令口調も避け、「●●してくれたらうれしい」「●●してくれる?」というお願いに言いかえます。
断る余地を残した言い方をすると、受け入れやすくなるのは、だれしも同じでしょう。
コロナ禍で外出機会が減っている今、認知症の親を介護しながら自宅でずっと過ごしている人は、ストレスが増しているかもしれません。
そんな人に岸見さんは、「親の介護は、人生を知るために、親が与えてくれたチャンスなのだと考えたらいかがでしょう」と言います。
実際に自分がその場に立ったら、こんなふうにうまくやれるとも思えませんが、「親を幸福にすることはできない」これは覚えておきたいと思います。