駅にはドラマがありますね。

夜遅く、自宅のある駅に降り立ったらストーカーが待ち伏せしてたとか、そんなんじゃないですよ。

 

「沁みる夜汽車」は、NHK BS1で放送されているたった10分間のドキュメンタリー番組。

 

この本では番組の中から10の物語が紹介されています。

 

特急白鳥号は、かつて日本海縦貫線を走っていた特急列車です。

 

いまから50年以上前の1969年1月2日8時30分、大阪発青森行きの列車に福田友伎子さんが乗り込みました。

交際相手の実家にあいさつに行くためです。

目的地は庄内平野の中心に位置する余目(あまるめ)駅。

到着予定時刻は夜の8時です。

 

友伎子さんは30歳を目前にしたキャリアウーマンで、婚約者の佐藤修三さんとはお見合いで知り合いました。

 

佐藤家は銀行員や教師など堅い仕事に就いているエリート家系、結婚に反対している親族もいて、友伎子さんは面接に向かうかのような緊張感で電車に乗り込んだそうです。

 

しかし、滋賀県の米原駅を過ぎたあたりで雪が舞い始め、新潟県糸魚川駅で列車は止まってしまいます。

 

途方に暮れた友伎子さんが、思わず「困りましたなぁ。やりきれませんね」とつぶやくと、隣の男性客が言いました。

 

「槍は切るもんじゃありません。通すものですよ。あなたも、やり通しなさい」

 

この言葉に発奮して、東京を経由して、なんとか山形にたどり着いた友伎子さんを修三さんは駅でずっと待っていました。

4日未明です。

 

「よう来たなあ、よう来てくれたなあ」

「根性あるなあ」

 

修三さんは、母親から「彼女が来なかったら、この縁談話はなかったと思って」と言われていたそうです。

 

 

~天竜浜名湖鉄道~

~JR肥薩線 大畑駅~

~阪堺電車~

~京成電鉄~

~アルピコ交通上高地線~

 

名もなき人々の心に沁みるドラマです。

 

 

2020年11月16日

ビジネス社

定価:本体1500円+税