発行は2010年10月1日

香山リカさんの書評をまとめたものです。

 

まえがきによると、 このころ依頼されるようになったのは「どこからでも開ける本」

 

数分で見開きを読めて「なるほど」と思ったり、涙がじんわりあふれたりして、後にはあまり残らない。そんな読み方のできる本です。

 

香山さんは、読者の数だけ本の読み方があっていいとはいうものの、最初の1ページから最後まできちんと読み通さなければならないような本が好きだといいます。

 

物語の場合、最初のページを開いた瞬間から、すぐに別の世界に旅立つことができる。目の前に行ったこともない国や時代の風景が広がる。会ったこともない人や自分とまったく年齢も立場も違う人に自分を重ね、冒険したりつらい目にあったり。ときには怒ったり泣いたりもする。

 

そして、物語には必ず結末があるので、どんなに気持ちが揺れ動いたり、考えがグルグルまわったりしても、ちゃんとどこかに落ち着くことになる。もちろん、その落ち着き先は自分の期待とは違う場合もあったが、それでも「なるほど。そうだったのか」とゴールにたどり着いた満足感、達成感は得られる。

 

「日常を離れよ、本を読もう」

 

第1章

1.うつ化社会の処方箋

2.心と脳の微妙な関係

3.くらべない生き方

第2章

生きづらさを感じた時の読書術

 

【取り上げられている本の一例】

『暴れる系の女たち』衿野未矢

『セックスレスキュー』大橋希

『子どもが育つ条件』柏木惠子

『モンスターマザー』石川結實

『この世のすべては私のもの』加藤達夫

『キュアcure』田口ランディ

 

ほとんど読んだことがないものばかりだったので、書評を読むだけでも参考になりました。

 

わたしが読んだことがあったのは『おひとりさまの老後』(上野千鶴子)

 

あとがきに到達したら、そこに「香山リカちゃん、酒井順子さん、もう『老後は怖く』ないからね!」という私的なメッセージを見つけて、チョーびっくりしたそうです。

 

◇◇◇◇◇

 

「カツマー対カヤマー」というのを覚えていらっしゃるでしょうか。

 

当時、破竹の勢いだった勝間和代さん。

カツマーになろうとして頑張って折れた女性が香山さんの診療所にたくさん訪れていたそうです。

 

そこで、香山さんは自著『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)の中で「〈勝間和代〉を目指さない」という章立てをして話題になりました。

 

あおったのはマスコミ。

ものごとを「さあ、正しいのはどちら?」「勝ったのは誰?」という見方でとらえようとするのは、今に始まったことではありません。

 

しかし、診療所に「白か黒しか考えられない」という人が来たら、医者は「この人の心理的エネルギーはかなり衰退している、病んでいる」と判断するのだそうです。

 

「黒か白か」「勝ちか負けか」という視点でしか考えられないのは、精神医学的に言えば、心の危機、心の病なのである。

 

では、病ではない心は、どう考えるのか。それはたとえば、「どっちにも理由があるし、ひとつには決められない」「まあ、両方のいいところを取ってぼちぼちやりましょう」という感じだ。

 

つまり、「黒とも白とも決められないのでとりあえず灰色」というのが、健康な心のものごとの決め方なのだ。

 

心が健康なら、黒か白か、勝か負けか、はっきり決められるのではないか、と思う人もいるかもしれないが、それは逆。心の健康状態が高ければ高いほど、「決められない」「どっちでもいい」と判断留保ができるようになるのだ。

 

♪さあさあ、はっきりカタをつけてよ~♪

と、ついつい言ってしまいそうな私は危ないですね~

 

 

わたしが読んだ本では『世界でもっとも阿呆な旅』(安居良基)も紹介されていました。

 

 

 

バカげたムダも、ここまでいけば力にと絶賛されていて、まったく同感です。

 

 

2010年10月1日 初版第1刷

七つ森書館

定価1300円+税