人口30万の街。
風情があるとはいえ、ここで本屋を始めることは自殺行為だったそうです。
それでも、盛岡にこそ、ドキドキワクワクする本屋をつくりたいと小さなお店を開きます。
新刊・古書店「BOOKNERD」です。
オープン時に丸眼鏡をかけ、中学生のような小さな女の子が店に来て、一冊のZINE(自費出版の冊子のようなもの)と、なぜか洋ナシをくれました。
くどうれいんさんでした。
彼女が持ってきたZINEは、早坂さんの興味をひかず、埋もれていましたが、それを読んだ奥さんが絶賛。
早坂さんも読んでみると、たしかにおもしろい。
それが『わたしを空腹にしないほうがいい』の出版につながります。
ニューヨークや西海岸に本の買いつけに出かけたり、お店に来てくれる人との出会いや別れなどなど。
生活はかつかつで、売り上げの多くはグッズと通販に依存していますが、実店舗を閉める気はないといいます。
なぜなら、そこは交流の場でもあるから。
お店のあれこれもおもしろいんですが、「ぼくの50冊」と題するブックレビューがかっこいいんです。
書き出しだけ引用します。
赤田祐一・ぱるぼら/20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち
「雑誌というものがこの世から存在しなくなったときこそ、ぼくはいよいよ戦争がはじまるのだと考えている」
カルヴィン・トムキンズ/優雅な生活が最高の復讐である
「哀しいことやつらいことから目をそむけるのではなく、あくまで生きる態度として不幸に呑まれまいとすることが「優雅さ」である。その優雅さを保ち続けるということはたぶん少しずつ自分のなかの何かが死んでしまうということなのではないだろうか」
川端康成/美しい日本の私
「月のあかるさや雪の白さ、枯れた花や夕陽の影をみてうつくしいと思う気持ちはおのずと自然にわきあがるものだ。そうしたうつくしいものを見たときに去来するあのむなしさはなんだろうと子どものころからずっと考えていた」
小林秀雄/小林秀雄全作品26 信ずることと知ること
「読んだだけでなんだか覚醒してしまい、読み終えたあとの世界が変わって見えるような文章というものが存在する。生きているうちにそうした文章に何度出会えるだろうか。そう考えながら、たくさんの本を読むことは至上の喜びだ」
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生きることにもがいた経験から、同じように悩んでいるであろう若い人に向けて書かれているみたいです。
「きみがほんとうにかがやく仕事をしよう」とか言われると、いや、わたしはそういうのいいですっていう感じなのですが。
お店屋さんの裏側はやっぱりおもしろいです。
ひとつだけ明確に言えるのは本には人が生きた証がある、ということじゃないだろうか。そこには書いた人間の経験があり、よろこびと哀しみ、うつくしいたましいの遍歴がある。そんな誰かの見た世界を求めて、人は今日も本屋をたずねる。
また、読みたい本がふえます。
2021年3月26日第一刷発行
木楽舎
定価(本体1400円+税)