きのうから女の半生シリーズみたいになってますが。
『組長の娘 やくざの家に生まれて』(新潮文庫2016年)のモデル、中川茂代さんは生野では有名な姐さんです。
その中川さんから、うちより「もっと激しい女がおるで」と紹介されたのが、本書の亜弓さん。
60人を率いた窃盗団の女首領です。
狙うのは主に高級車。
その窃盗の手口が詳しく語られます。
今では、車の防犯性能も上がっているし、街にはいたるところにカメラもあるので、昔のようにはいかないと思いますが、すごく研究してる。
そんな技術と人望があれば、真っ当な仕事でも十分やっていけると思うのですが、そうはいかないんですね。
筆者は犯罪社会学が専門の大学講師。
犯罪者がどうして犯罪者になってしまうのか、どうしたら足を洗うことができるのかなどを研究する学者です。
ヤクザの調査を始めたのは2006年。
義理を欠かないように毎年大阪に足を運び、たくさんのやくざと知り合いになったそうです。
亜弓さんは薬もやるようになって、何度も警察に捕まるのですが、取り調べに臨む姿勢が参考になります。
取り調べを受けたら、腹を決めて緘黙です。
緘黙とは、黙秘のレベルではなく、一切口から音を発しないことです。
これは供述調書を作らせないための作戦で、調書がなければ、刑事手続き上、起訴できないことを狙ったものです。
取り調べ警察官もヤクザと同じで、オドシ役とナダメ役の劇団イロハ波状攻撃で来るので、ぽろっと情にほだされて、何かしゃべろうものなら、作文の才能がある刑事さんが、有罪にできるように調書をでっちあげてしまうそうです。
結局、亜弓さんは本当に悪いことをしてるので、二十代から何度も大学(刑務所のこと)に出たり入ったりするのですが、悪の道から抜け出すのはとても難しいらしいです。
長年、土手の上ではなく、淀んだドブ川の中ばかりを歩いてきた人間は、土手の上の道に戻れないものです。
土手の上の人からは「犯罪者」と非難され、土手の下の人からは「裏切者」と言われるかもしれません。
いや、たとえ戻れるとしても、そこまで這い上がることがコワイという現実もあります。なぜかわかりませんが、ドブ川の中では鉄の心臓でも、土手の上に上がるとトウフの心臓になるのです。
現在は更生して、一児のママとして暮らしている亜弓さん。
ピンボケした写真が1枚挟まっているのですが、すごい美人です。
平成29年9月15日発行
新潮社
定価:本体1300円(税別)