とんとん・にっきさんご紹介の『美貌のひと』のほうが私らしかったと悔やまれます。
えっ、『異形のものたち』のほうが私らしいって?
まあ、いいでしょう。
生ぬるい日常を揺さぶり、鈍麻した意識を覚醒させ、それまで気づかなかった新たな美、新たな視点を知らしめることも芸術表現の一つだ。そのため創り手は固有の鋭い感覚で、奇異、異様、異類、異体、そして怪の中に人間の本質を見出し、且つ、それを巧みに描写して受け手に突きつけようとする。(はじめにより)
章立ては「人獣」「蛇」「悪魔と天使」「キメラ」「ただならぬ気配」「妖精・魔女」「魑魅魍魎」。
爬虫類、蛇に対しては根源的な畏怖からから逃れられない印象だという。
悪魔も天使も時代が下がるにつれてどんどん人間的になっているそうだ。
「したがって純粋に形態面だけで言えば、中世の方がよっぽどクリエイティブで異形さも際立っていた」
『人魚の戯れ』アルノルト・ベックリン
1886年、油絵、バーゼル市美術館
これなんか、私好きですね。
笑ってるのが薄気味悪いです。
『オデュッセウスとセイレーン』
ハーバード・ジェイムズ・ドレイパー
1909年、油絵、リーズ美術館
『原罪』
ヒューホ・ファン・デル・グース
ウイーン美術史美術館
蛇がいますよ。
『アレッツォのキマイラ』
作者不詳
フィレンツェ国立考古学博物館
「キメラ」は一個体の中に異なる遺伝子系の細胞が共存する現象、またその個体を表す生物学用語だそうです。(書いててわかってないね)
語源は、ギリシャ神話に出てくる「キマイラ」
非常に奇妙な形態で合作の失敗作と解説されています。
『処女と一角獣』
ドメニキーノ
ユニコーンの存在は、誰も見たことがないにもかかわらず、古代からずっと信じられてきた。17世紀に入るころ、科学者たちから疑義が呈され、それでも1世紀以上、信じる人が絶えなかったそうです。
人は信じたいことしか信じないということがよくわかると中野さんは言ってます。
『エル(=彼女)』
ギュスターヴ=アドルフ・モッサ
屍の山の上に横座りする女。
頭飾りの金の光輪に書かれているのは「これが私の命令だ。私の意志は理性に勝る」
童顔に巨大な乳房。
これは多くの男の夢なのだろうと指摘されます。
少なくとも、日本のアニメに登場するヒロインにつながっていることは間違いないと。
この絵自体は100年前のものです。
異形のものを生み出す想像力は、異形のものを見たいという欲求にこたえるものでもあったのでしょう。
ばかばかしいような絵もありますが、中野さんの解説がわかりやすく興味深く読めました。
でも、やっぱり『美貌のひと』を読み直そう。
2021年4月10日
NHK出版
定価:本体1200円+税