服を買うとき、アイロンを掛けなくていいものを選ぶ人もいるでしょう。
筆者の松澤さんは、高校卒業後、オーストラリアのシドニーに留学し、アイロン掛けに出会います。
ステイ先のマックロー家では家じゅう誰もがアイロン掛けをしていました。Tシャツも下着も靴下までしっかりシワを伸ばします。そもそもオーストラリア人はアイロン掛けが大好きなんだそうです。
同時にもともと自然が大好きだった松澤さんは、オーストラリアの大自然の中、カヌーやカヤック、波乗り、狩猟、川下り、サバイバルキャンプ、渓谷でトレッキングなど様々なアウトドア活動に親しみます。
そんなある日、シドニー湾のカヌー練習場の近くで何気なくテレビを見ていた松澤さんは、山の頂上でアイロン掛けをする人の映像を目にします。
エクストリーム・アイロニングとの出会いでした。
「エクストリーム・アイロニング」とは、切り立つ山頂や岸壁、海中や急流など、そこに到達するだけでも厳しい、自然環境の下アイロンがけをする「ネイチャー・アイロニング」、スポーツしながら行う「スポーツ・アイロニング」、アクロバティックなアイロン掛けを競う「競技系アイロニング」の総称です。
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帰国した松澤さんは、日本がとにかく便利なことにに違和感を感じます。
物にあふれた生活、お金さえあればなんでも買えるという環境になじめませんでした。
さらに違和感を深めたのは、街中に流れるアナウンス。
「傘をお忘れなく」「エスカレーターは真ん中を」公園では「ボール遊びはやめましょう」
この頃になると、僕は半分目をつぶって生活するようになっていった。日本では、目を大きく開ける必要がないほど、すべてにレールが敷かれているので、人はただそのレールの上を行きさえすれば、大して考えもせず楽に生きていけるのであった。
アウトドアに出かけても、過剰なルールと規則が存在し、必要以上に管理され、本来アウトドアで楽しむべきいろいろなことを、お金を払って他の人にやってもらう、自己判断するスペースが全くない現実に軽い「うつ」状態だったかもしれないとおっしゃってます。
そこで思い出したのが、エクストリーム・アイロニングでした。
いつもトレイルランしていた筑波山に向かいます。
御幸ヶ原コースを40分で走り抜けるというからすごいです。(通常90分)
しかも、アイロンをリュックに入れ、アイロン台を担いで登ります。
正直、恥ずかしかったそうです。
しかしシワを伸ばしていくうちに何とも言えない解放感を味わい、エクストリーム・アイロニングの世界にどんどんはまり、富士山頂でアイロンを掛けるという偉業を成し遂げています。
何でそんなことをするのか。
そこにシワがあるから
アイロンがけの極意は楽しむことと松澤さんは言います。
外で掛けるアイロンは格別だそうです。
庭でもベランダでも、延長コードを伸ばして、男性こそアイロン掛けを楽しんでほしいと言ってます。
この本は『心と体がラクになる読書セラピー』(寺田真理子)という本の中で、閉塞感を覚えるときにおススメの本として紹介されていました。
8月というのにお天気がパッとしませんが、生乾きのTシャツにアイロンでもかけてすっきりしたくなります。
2008年10月15日 初版発行
早川書房
定価(1400円+税)