その男、身長175㎝、体重65キロというところでしょうか。
散歩をする私の前方に立ちはだかります。
俺は前科11犯だぞ~
刑務所に5回入ってるんだぞ~
と叫んでいます。
中国語検定3級に2回落ちたぞとか、相手にされそうにありません。
怖い。
同時に頭の中で猪木先生の入場テーマ曲「炎のファイター 〜INOKI BOM-BA-YE〜」が鳴り出します。
この「炎のファイター 〜INOKI BOM-BA-YE〜」ですが、私つい最近まで「猪木がんば~れ!」って言ってると思ってたんですね。
そうしたら、会社の人に「猪木先生に頑張れは失礼じゃないか」って言われて調べてみたところ、「ボンバイエ」って言ってたんですよ。
意味は「やっちまえ」
全然違うじゃないですか~
それで、コトラーやっちまうのかと思いましたが、か弱き乙女がそんなことするわけないでしょ。距離最短で3mとおじさんに迫りましたが、なんとか目を合わさずスルーできました。
ちなみに帰りにその道をまた通ったら、おじさんはおまわりさんに質問されてたよ。
というわけで、いつなんどき、街なかでクマに出会うか分かりません。
姉崎さんはアイヌ民族最後の熊撃ちの猟師です。
北海道でヒグマ猟が禁止となり、それ以後クマ猟を本職とした猟師も次々といなくなり、今では姉崎さんただ一人となってしまったそうです。(本が書かれたのは2002年、現在は狩猟期間であれば許可制で狩猟できるようです)
私は、クマを自分の師匠だと本気で思っています。なぜクマが師匠かというと、クマの足跡を見つけたときにクマを一生懸命追って歩く、そうやって追っていくうちに、山の歩き方やクマの行動などをすべて学んだからです。~プロローグより
姉崎さんは1923(大正12)年生まれ。
子どものころから貧乏が嫌で、朝早く起きて魚を釣りに行ったり、その魚を焼いて乾して千歳の旅館に売りに行きました。
大人の日当が1円20銭の頃に1匹1銭のヤマメを100匹から150匹釣って、1日1円から1円50銭くらい稼いでいたそうです。(逞しい)
12歳でお父さんが亡くなり、一家を支えるようになります。
一生懸命働いて17歳で家を建て、25歳で結婚、米軍基地で働きながら単独でクマ撃ちを始め、1990年の春グマの狩猟禁止までに60頭を獲ったそうです。
聞き手の片山さんが姉崎さんにインタビューする形で進んでいくんですが、実に興味深いです。山の歩き方、山に持っていくもの、雪崩の危険、夜の山を一人で歩いてクマを追った姉崎さんならではの経験が語られます。
クマはふつうは人間を襲わないそうです。
本当は人間を怖がっていて、出会ってしまうとびっくりしてうわーっとなっているだけなんだそうです。
しかし、実際闘ってみると人間はとても弱くて、早くも走れない(クマは時速60キロ)、木にも登れない。今まで怖いと思っていた人間が大したことないと分かることで、クマが非常に危険な動物になるそうです。
「クマに会ったらどうするか」姉崎さんの10カ条。
(まず予防のために)
一 ペットボトルを歩きながら押してペコペコ鳴らす。
二 または、木を細い棒で縦に叩いて音を立てる。
(クマも学習しているので今は違うかもしれません)
〈もしもクマに出会ったら〉
三 背中を見せて走って逃げない。
四 大声を出す。
五 じっと立っているだけでもよい。
六 腰を抜かしてもよいから動かない。
七 にらめっこで根くらべ。
八 子連れグマに出会ったら子グマを見ないで親だけを見ながら静かに後ずさり。
九 ベルトをヘビのように揺らしたり、釣り竿をヒューヒュー音を立てるようにしたり振り回す。(ヘビが嫌いらしい)
十 柴を引きずって静かに離れる(尖った棒で突かない)
やっぱり相手より俺が強いんだっていう心が大事なんですよ。俺のほうが強いんだ。そう思ったら勇気が出る。そうしたら、よし、おまえには負けないぞっていう気になった。
出版社:筑摩書房
2014年3月10日文庫版発行
価格:840円(税別)