がん患者はがんでは死なない
病理医として、多数の病理解剖を経験してきた筆者が、人が亡くなるとき体の中で何が起こっているか解説します。
有名人の訃報から着想を得て書いた記事を「Yahoo!ニュース」や「日経グッディ」に投稿したところ、100万以上のページビューがあり、死について関心を持つ人がたくさんいることに気づいたといいます。(帯では1000万超)
興味本位で取り上げるのではなく、いつか直面するそのとき、自分の体の中で何が起こっているのか、川島なお美さんや渡瀬恒彦さんの例を挙げることにより、身近なものになっています。
敗血症、多臓器不全、よく耳にするものの、調べることもなかった言葉の意味も分かりました。
働き盛りを襲う突然死
遺された家族にとっては、がんよりもショックが大きいかもしれません。
突然死=急死の多くは、血管が原因だそうです。
疲労や食欲不振などの「予兆」があることもあります。
ふだんから、血管を健康にする生活が重要です。
高齢者の場合、急な温度変化に気をつけることもよく言われることですね。
今一番関心があるのは、新型コロナウイルスに感染した人の体に何が起こっているかではないでしょうか。
・新型コロナウイルス感染では、肺胞の壁の浮腫が少ない
・細菌や真菌感染の合併症が見られることもある
・ダメージを受けた肺は破壊が進み、防衛力が弱まる
・血栓症が極めて多い
・大きな血管にも血栓ができるのが、新型コロナの最大の特徴
亡くなった患者の病理解剖をすると現れる異常なほどの血栓は、通常の風邪をこじらせた肺炎や敗血症ではめったに見られない。「新型コロナはただの風邪」などという机上の空論は、一枚の病理組織標本を見れば間違っていると分かる。
ここで紹介した知見は、新型コロナウイルスに感染し、比較的短時間で亡くなった方々を解剖して得られたものだ。尋常でないほどの血栓や血管のダメージが患者を死に至らしめたのである。では、ダメージを受けながらも回復した患者はどうなっていくのだろうか。無症状と思っていた人に血管のダメージはなかったのか。
残念ながら、それはまだ分からない。
新型コロナの感染症が起きてまだ一年と少ししか経っておらず、未知な部分が多い。私たちは新型コロナ感染症について無知であることを謙虚に受け止め、過大評価でも過小評価でもない姿勢で、この新しい病気に取り組んでいく必要がある。
「死因不明社会」とは、作家の海堂尊さんの著書で知られるようになりましたが、日本では解剖の数が海外と比べ非常に少なく、多くの人の死の原因が特定されていません。
医師30万人に対し、病理医は2,000人。
解剖の資格取得については、申請者が少ないため、手続も煩雑で、筆者も二度と申請したくないそうです。
2016年、ドラマ化された『フラジャイル』をきっかけに病理医に興味を持つ人が増えたようです。
女優の芦田愛菜さんが、将来なりたい職業にあげて話題にもなりました。
核家族が増え、多くの人が病院で亡くなります。
筆者は、誰もがいつかは経験する死が遠くなっていることを懸念しています。
本書を通じて読者の皆さんが、死を知り、死を学び、死を正しく恐れ、そして充実した人生を生きることを願う。
今後、迎える多死社会を前に、いい本を読んだなと思います。
前のご主人を病気で亡くされた「読書好き」さんの感想はこちら。
わたしの感想より、ずっと迫るものがあります。
発行:日経BP
2021年5月7日第1刷
定価:900円+税
買った日:7月6日
友人とスタバでお茶
隣の席の少年には迷惑だったかもしれない
山川の日本史が開かれることはなかった