子どものころ、どんな本を読みましたか?
心を揺さぶられた物語、勇気をもらった言葉、憧れの主人公
作家、女優、映画監督ら70名が、今も心に残っている本について綴ります。
歌人の加藤千恵さんは、本好きな子だったと言われるものの記憶がないといいます。
小学校の友達と会っても、昔のことはほぼ覚えてないので聞き役に徹するそうです。
そんな加藤さんが覚えてる本は『はだか 谷川俊太郎詩集』
出会いは小学校1年生のときです。
そのときひとりでいいからすきなひとがいるといいな
そのひとはもうしんでてもいいから
どうしてもわすれられないおもいでがあるといいな
どこからかうみのにおいがしてくる
でもわたしはきっとうみよりももっととおくへいける
「とおく」より
17歳のとき『ハッピーアイスクリーム』という短歌集でデビューした加藤さん。
文庫版の解説文を書いてくれたのは谷川俊太郎さんだったそうです。
すごいね。
内澤旬子さんは『ベルサイユのばら』
ルイ15世が死ぬシーンから読めなくなってしまったのだそうです。
たしかに怖かった、けど。
生の内臓とか、動物を肉にする現場を渡り歩き、詳細なルポとイラストを『世界屠畜紀行』にまとめた内澤さんがあれしきのもので……
おもしろいもんです。
朝日新聞社を50歳で退職した稲垣えみ子さん
東日本大震災をきっかけに電気を使わない生活を実践してます。
どうすれば大人にウケるかということを知り尽くしていた、イヤラシイ子供だったという稲垣さん。
読書感想文コンクールに「応募すれば優勝だな」と確信します。
大人は「子供らしい」文章が好きと見抜いていた稲垣さんは、『ねしょんべんものがたり』の感想を書き、全国大会で入賞します。
この文章をまとめるにあたり、40年ぶりに読み直したそうです。
幼い人たちのまわりには、あんがいに、心をぎりぎりとしばりつけていくもの、劣等感をうえつけるもの、そういうものが、幾重にもまとわりついているようです。それらのものを、ひとつひとつとりのぞく仕事も、児童文学にたずさわるもののつとめであると思います。(編者 椋鳩十の前書き)
自らの小賢しさや、人をなめきった心情の対極にある真心があったと恥じます。
「志の高さとはつまるところ弱きものに対する優しさなのだ」
この文章はとてもうまくて、稲垣さんはいまだ「小賢しさ」の呪縛にとらわれているのかもしれません。
ほかに浜田マハ『よだかの星』、犬童一心『半漁人』、穂村弘『ちいさいモモちゃん』
『ハイジ』『小公女』『はつ恋』など読み返したくなる本が満載です。
辻村深月さんが引用する『モモ』の一節から
いちどに道路全部のことを考えてはいかん、わかるかな?つぎの一歩のことだけ、つぎの一呼吸のことだけ、つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。ひょっと気がついたときは、一歩一歩すすんできた道路が全部終わっとる。
これは私も、圧倒されるような量の仕事を前にしたとき(滅多にないが)、いつも思い出す言葉です。
目の前の一つひとつをこなしていく。
それしかできないですもんね。
子どもの本には力があります。
追記
蛇足ながら、私が10歳までに読んだ本をあげるとすれば『あんじゅとずしおう』
畠中恵さんが紹介してました。
どこかで見たお名前と思ったら新潮文庫の100冊にありました。
『しゃばけ』『てんげんつう』の著者でした。
『てんげんつう』の一文
「おや、若だんな。夢に現れるとは珍しいね」
読んでみたくなった本でした。
2017年7月22日発行
ポプラ社
定価:本体1600円(税別)
読んだ日:7月2日
雨が降る夜