「冲方塾」という新人発掘企画の副賞として設けられた全12回、半年間にわたる創作塾の講座録を基にを再構成し、1冊の本にまとめられたものです。講座をとおして得ることができた、新たな視点も書き加えられています。
冲方丁はデビューから25年。
30代で稼いだお金は6億円。中堅どころの作家としてはまあまあなんだそうです。
その収入は全く残っていませんが、あまり悲観していないのは「書ける」という財産があるからだといいます。
冲方さんの「書ける」は「稼ぐ」に置き換えてもいいかもしれません。
作家としてデビューできないのはなぜか、デビューしたものの生き残れないのはなぜか。
ずばり、その中心に「WHY」を置くか「WHAT」を置くかの違い。
「何を書くか」ではなく「なんのために書くかを知っている」ということを挙げてます。
冲方さんはなんのために書くか
「最初の1行を書くわくわくと、最後の1行を書く達成感を、死ぬまで味わい続けたいから書く」
「執筆を通して、自分、人間、社会、世界を知りたいから書く」
「言葉」「文章」「描写」「物語」「課題の設定」などについて、例示しながら、具体的に作家として生き残る方法がレクチャーされていきます。
この本のとおりにすれば、小説家になれるような気もしてきます。
その一方で、待てよ、何で私はこの本を読んでるんだ、これは私が読まなくていい本じゃないかという思いもぬぐえません。
なのにどんどん読んでしまう。
さすが、『マルドゥック・スクランブル』の作者ですって、知らないけど。
『天地明察』『光圀伝』だとちょっと知ってる。
作家になるためにやっておくべき課題八つ
一、筆写する
二、人称を変えてみる
三、自分自身の葬儀の弔辞を書いてみる
・自分への弔辞は、自分がどんな人間か知るための手段にもなる。
・「WHY」を発見する一助となる。
四、モノに語らせる
本文で示された生き残るためのメソッドを使っている例文集が付録として載せられています。
感情と肉体を同時に描写している例として挙げられてるのは『剣客商売 白い鬼』(池波正太郎 新潮社)
これ、さわりだけでもおもしろいです。
ぞくぞくします。
人は生きる上で何かしら表現していると言われます。
そういう意味では、誰もが参考にできる本かもしれません。
冲方さんは一人でも多くの書き手志望の方が世に出ることを願っていると結んでいます。
しかし、冲方さんの自分をマネジメントする力、並大抵でない努力を知るとき、小説家になろうという人が、さっさと別の道へと踏み出すきっかけになる本としても、読めるのではないかと思いました。