「夜8時間まとめて眠るのよいという考えは、日本では明治時代の近代化の中で登場しました」とは、日本の睡眠史を研究するケンブリッジ大学准教授のブリギッテ・シテーガさん。産業革命後の西洋で広まった「機械の稼働に合わせて昼間は寝ずに働き、夜に8時間眠るのが労働管理上望ましい」との考えを輸入したのだという。
「安全確保の面から夜中に目を覚ますのは動物として普通です」というのは、秋田大学教授の三島和夫さん。
「睡眠はわからないことばかり。人はなぜ眠るのかという基本的な問いすら未解明なのです」(筑波大学教授/柳沢正史)
睡眠が謎に包まれている理由の一つはデータ不足。
さらに睡眠が個人差の塊だということも、実態の解明を阻んできた。
今後、大量のデータを解析し、どうすれば健康やパフォーマンスに好影響が出そうか、一般論ではなく個別の解が見えるようになるそうだ。
デンマークの製薬会社では、働く時間を睡眠との兼ね合いで、自ら決めるよう推奨されている。
朝型の社員は7時半に出社し、3時に退社、夜型の社員は数時間遅れて働き始め、メインの仕事は夕方から夜に回す。各自のリズムに合わせたほうが働きやすいうえ、生産性も上がるという。
バイオリニストの千住真理子さんも、練習よりも睡眠のほうがずっと大事だと言い切る。
どんなに疲れていても1日の終わりにプールで1キロ泳ぎ、耳栓やアイマスクをつけ、情報を遮断する徹底ぶりだ。
作曲家のマックス・リヒターさんはシドニーのオペラハウスやアントワープの聖母大聖堂で、8時間に及ぶコンサートを行った。観客はベッドで眠りながら公演を聴く。
リヒターさんは「高度に工業化された世界に、24時間オンラインというプレッシャーも加わった。我々は自らを生産的か、活動しているかという軸で評価しがちだが、何もしない時間にも力があるのです」という。
眠りは活動や生産ばかりを求める社会への抗議でもあるそうだ。
そういえば若いときはよく眠ったな。
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