著者の末永幸歩さんは、美術教育の研究をするかたわら、中学・高校の美術教師として教壇に立っています。その授業の内容が、大人にこそ必要なのではないかということで生まれたのが本書だそうです。

 

アート思考とは、「自分なりのものの見方」で世界を見つめ、好奇心に従って探求を進めること、その結果、「自分なりの答え」を生み出すことができる人をアーティストと呼ぶことができると定義されています。

 

こんなことは、アーティストとっては当たり前のことだと思いますが、この本は大人気です。

知的な作業にもAIが入り込んできて、創造的な発想を持たなければ生き残れないという危機感があるのかもしれません。

私は単純に絵がへただから手に取ってみただけ。

(これも当たり前ながら本書を読んでも絵はうまくなりません)

 

アート思考を身につけるために6つのクラスが用意されています。

各クラスに課題があって、自画像やサイコロを描くよう指示されます。

どうせ描かなかったでしょうと、筆者の声が入ります。(ちゃんと描きましたよ、サイコロ)

 

ほかの生徒さんの絵が示され、どれが一番うまいと思いましたかとか、どれが本当らしく見えますかとか、なぜそう思いますかとか聞かれます。

 

ふだん、何となく「いいな」と流していることを、なぜそう思うのか考える。

これが自分の視点だというわけですね。

絵を見てどんな感想を持つかに正解はない。

描いた人が正解を持っているわけでもない。

そんなことも学びました。

 

《緑のすじのあるマティス夫人の肖像》アンリ・マティス

《アビニヨンの娘たち》パブロ・ピカソ

《コンポジションⅦ》ワシリー・カンディンスキー

などが教材として登場します。

 

アーティストと対比して、「花職人」という言葉が出てきます。

彼らが夢中になってつくっているのは、他人から頼まれた「花」

自分でも気づかないまま、他人から与えられたゴールに向かって課題解決をしている。

悲しいですね。(花職人は勤勉なのです)

 

最終章では、スティーブ・ジョブズの言葉が引用されていました。

「仕事は人生の大部分を占めます。だから、心から満たされるためのたった1つの方法は、自分がすばらしいと信じる仕事をすることです。そして、すばらしい仕事をするためのたった1つの方法は、自分がしていることを愛することです。もし、愛せるものがまだ見つかっていないなら、探し続けてください。立ち止まらずに」

 

ジョブズだから言えるんでしょ、世の中そんなに甘くないわよと思いますか。

そう思ったのは私です。

 

著者は「「自分の愛すること」を軸にしていれば、目の前の荒波に飲み込まれず、何回でも立ち直り、「表現の花」を咲かせることができるはずです」と結んでいます。

 

 

「これがアートだというようなものは、ほんとうは存在しない。ただ、アーティストたちがいるだけだ」(「美術の歩み」エルンスト・ゴンブリッチ)

 

誰もがアーティストになれるんだな、きっと。(自画像がへたくそでも)