美術家・版画家・エッセイスト 篠田桃紅(とうこう)。1913年生まれの107歳。

独学で書を極め、戦後、墨で抽象画を書き始め、1956年渡米。ニューヨークを拠点に個展を開催し、58年帰国。壁画や壁書、芝・増上寺大本堂の襖絵などの大作の一方で、リトグラフや装丁、題字、随筆を手掛けるなど、活動は多岐にわたる。

 

子どものときから、社会というものに違和感を感じて、結婚なんて自分にはできないだろうと悟ってしまったという篠田さん。自分で生きていこうと、家を出て書道教室を開きます。

 

篠田さんより字がうまかったお兄さんに、あれぐらいの腕前でお弟子さんと取ろうというのだから、いい度胸だねと言われたとき、自分よりへたな人に教えればいいと言ったといいます。

いま思えばうぬぼれていたとおっしゃいますが、自信というものは必要ですね。

 

【以下抜粋】

考えてみたけど、スランプというものがないわね、いままで一度も。その代わり、やれ調子が乗ったなんてこともない。毎日ご飯を食べて生きているのと同じようなもの。実に淡々としたもの。

 

年甲斐もなくとか、いいトシをしてとか、よく言いますね。そもそも、トシというのは、一体、いつからが、トシなんでしょうか。

 

自由になるというのは、超越するというのとは違います。客観視することができる、ということです。客観視するためには、自分が独立していなければなりません。なにかに所属していれば、その所属した場所からしか見えない。それは客観ではない。一方的な、ただある方角から見たものです。客観は、すべてのことを一歩離れて、少し高い所から見ること。だから自分の位置を客観視するためにも、自由でなければならない。

 

「おわりに」では、葛飾北斎の「七十歳までに描いたものには、ろくな絵がない」という言葉が引用されています。

最後まで自分らしく生きるヒントを与えてくれる良書でした。