「食品かドラッグか、という分類は、歴史的に見ても、時の権力者の思惑によって法律で恣意的に切り分けているに過ぎない」(訳者あとがき)
例えば、アヘンは、西洋世界では、20世紀初頭まで合法だったそうです。
東洋でもアヘンは葬儀でふるまわれるなど、悲しみを癒す植物として使われていました。
著者のマイケル・ポーランはジャーナリストで、ハーバード大学でライティング、カリフォルニア大学でジャーナリズムを教えています。幻覚剤は役に立つのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズなどの著書があり、2010年には「タイム」誌の「世界で最も影響力がある100人」に選ばれています。
本書で取り上げられるのは、アヘン、カフェイン、メスカリン。
メスカリンというのは、ある種のサボテンで生成され、アメリカ先住民によって宗教儀式で用いられてきました。
現在、アメリカ合衆国では、先住民以外の人の所持や使用が禁止されています。
それぞれ、鎮痛剤系、興奮剤系、幻覚剤系の薬剤で、「これら三種類の植物由来の薬物で、精神活性物質から人間が得られる体験の種類の大部分が網羅できる」そうです。
著者が自ら、これらの薬物を試してどんな感じかレポートします。
園芸家でもある著者は庭で大麻を栽培して、芥子坊主を収穫し、それを煮出してお茶にします。
感想は
苦くてまずいそうです。
植物が苦くてまずい成分を持っているのは、敵から身を守るため。
そう、食べられないためなんですね。
人はそんなものをなぜわざわざ口にするのか。
苦くてまずいお茶を無理して飲み込んだ後の描写が興味深いです。
痛みが薄らぎ、不安や憂鬱、心配のような負の感情が取り去られ……
違法っぽいのでやめておきます(笑)
カフェイン
コーヒー、茶、チョコレートがイングランドに到来したのは、1650年代。
「ヨーロッパにカフェインが到来したことがすべてを変えた……」と言っても大げさではないと、著者は言います。
「ヨーロッパでは、コーヒーや茶が登場するまでは、朝も昼も夜もアルコールが飲まれていた」というのは、はじめて知りました。
それまで、アルコールでぼんやりしていた頭が、カフェインでスッキリし、啓蒙思想や革命につながっていったというのです。
そうなの?
影響を問題視する医師もいたようですが、産業革命、資本主義の発展などに伴い、太陽光に関係なくスッキリとした頭で働けるカフェインは、権力者にとっても都合がよかったのでしょう。
著者によれば、現在、ほぼ世界中の人はカフェイン中毒が常態。
ちなみに、精神活性物質や睡眠などの研究者たちはみなカフェインをやめているそうです。
ほかにもコーヒーの栽培地を巡る異常気象の影響やカフェインが昆虫に与える影響など、広範囲にわたって考察される内容、そして、著者自身のカフェイン断ちの実験など、大変楽しく読みました。
メスカリンについては、コロナ禍の中、メキシコで実際にその「薬物」を体験するなど、これもまた豊富な知識と実際の経験に裏打ちされる内容です。
実は危険な薬物?
2023年6月2日発行
亜紀書房
2,500円+税
おつき合いありがとうございます。