私は、幼少の頃から、父が大好きだった。
可愛がられ、いつも守られていた。
大人になっても、結婚しても
父がいるというだけで、安心していた。
その父がガンになり、入院した。
入院中も比較的元気だった。
だが、突然死んだ。
誤嚥だった。
病院から報告があって
駆け付けたが
既に帰らぬ人になっていた。
私は父が死ぬなんて信じられなかった。
人目も憚らず
｢父は殺された。父を返して❗｣と大きな声で
叫んでいた。
遺体が家に戻っても
父のそばを離れることができなかった。
次々から涙があふれ、止まることがなかった。
お手伝いに来ていた親戚の人が
｢お父さんは、本当に娘さんに慕われていたんですね。お父さんは幸せものですね｣と
声をかけられた。
私にはそんなことなどどうでもいい。
悲しくて悲しくて、やりきれなかった。
通夜になっても、私の悲しみは癒えず
目頭を押さえ、泣きじゃくっていた。
ふと、隣の人をみると
その人も目にハンカチを当て、泣いている。
知らない若い男性だった。
ちょっと不思議に思い、その人の顔をみると
｢あまりも悲しそうだったので、
つい、もらい泣きしました｣と言われた。
こんな優しい人もいるんだと胸が熱くなった。
それでも、私は葬式でも焦心しきり
悲しみが消えることがなかった。
葬儀を終え、落ち着いた時は
とてつもない疎外感に襲われた。
体を震わせ、悲しみの底に沈んでいた。
すると、そこにすっーと父が現れ
柔和な顔で、私を見つめているのです。
私はビックリして、目を見開いて
父を見つめました。
父は何も言わなかったけれど
｢いつまで泣いているんだ。
死んでもいつもお前のそばにいるよ｣と
その顔が語っているように思えました。
それからは、私も泣くこともなくなり
父がいつもそばにいると思うと
元気が出るようになりました。
いまもそばに来て
｢お前は相変わらず、慌てん坊だな。
もう少し落ち着いて生きるんだね｣
と、たしなめられているような気がします。
父さん、これは生まれ持った性格だから
しかたがないよ。
父は、｢やれ、やれ｣ときっと
諦めの境地で、呆れていることでしょう。