つつじが美しい季節になりました。

 

それを見ると

少し胸がキュンとなります。

 

いつの頃だったか忘れましたが

植物を育てるのが好きな夫は

生垣の周りを芝桜で縁取ろうと

園芸店に芝桜の苗を買いに行きました。

当時セダンの車に乗っていた夫は

トランクに入れて家に運びました。

トランクでは詰める苗は限られています。

夫は敵数を植えるのに

何度も家と園芸店を往復していました。

ようやく数が揃って、芝桜を植え揃えました。

その景色は、それはそれは可憐で

ふたりで目を細め、芽吹く春を喜び合いました。

 

それからしばらくして夫が悲しそうな顔をして

私に言いにきました。

「お父さん(私の父)が芝桜を全部刈ってしまった」

と。

「えっ!」と私もびっくり!

生垣を見ると、夫が何回も往復して

丁寧に植えた芝桜は、ひとひらの花びらもなく

刈り取られていました。

 

父は時々、隣にある父の土地の草刈りにきていました。

そしてある時から、その作業は夫が引き受け

父は土地の周りをこつこつ手刈りをしていました。

たぶん、植物のことをあまり知らない父は

雑草だと思い、刈り取ってしまったのでしょう。

 

しかし、この時は夫の労力と思いを感じ

憤りが込み上げてきました。

すぐに抗議しようと実家に電話を入れました。

父は外出していたらしく電話には母がでてきました。

怒りで一気にまくしたれる娘に母は何を言っているのか

わからなかったようです。

 

それでも怒りの収まらない私は

悶々としていました。

 

すると、そこへ父がやってきました。

いつも堂々としている父が

しょぼくれた表情で

背中を丸め、やってきました。

「すまんかった」と娘に深々と頭を下げたのです。

しかも、右手に2本のお酒を抱えていました。

 

その姿をみて、父の不始末に

怒り心頭していた自分が恥ずかしくなりました。

そして、娘の私に頭を下げさせてしまった

父の姿をみて、私は尊敬する父に

なんてことさせてしまったのだろうと

後悔の念に襲われました。

それにしてもお酒までもってきて

そんな他人行儀なと思い

父の懺悔の気持ちに胸が締め付けられました。

 

それを見ていた夫は

「シズちゃん、もういいよ」と

私と父を許してくれました。

 

それから

毎年、春になり花が咲き

あたりの家で芝桜が咲き揃うと

あの時の父の顔が目に浮かび

せつなさと懐かしさの入り混じった

気持ちになります。

 

父さん

悪気はなかったんだよね。怒ったりしてごめんね。

と心の中で父に詫びています。

 

きっと、父も天国で私に詫びているんでしょうね。