父は、仕事場の旅先から帰ると
近くの映画館で、侍映画や西部劇を観るのが好きだった。
夕食を済ませると、いそいそ出かける。
子供を寵愛する父は
どこへ行くにも、私は連れていかれ
映画鑑賞も例外ではなかった。
父が好きだった私は、辺りが暗くなっているにもかかわらず、
映画館まで川沿いをウキウキして
寄り添って、歩いた。
当時の映画館は、2階は畳敷だった。
父は決まって、2階の高台から
見下ろすように、観ていた。
観る映画は、チャンバラと拳銃劇である。
まだ小さい女の子は、そんなドタバタ映画は
面白くない。
夕食後ともあって、私はいつの間にか
眠ってしまっている。
映画は、知らない間に終わっている。
すると、人が少なくなった館内に
母が毛糸のショールを抱えやってくる。
私は眠ったまま、ショールを羽織られ
父の背中に背負われ、母と3人で
家路に急ぐ。
それが、父と私の懐かしい映画館物語だ。

漆黒の空の下、そばで聞こえる川音。
下流に近いその川から漂う磯の香り。
それらが、父の背中の匂いと混ざって
私は、さらに夢の中に沈んでいった。
子供は、親の背中をみて育つ。
う~ん?
この場合、ちょっと意味が違うだろう(笑)