祖父母が亡くなって
母は、元気になった。
こう言うと、舅姑の死を待っていた鬼嫁のように聞こえるけど、
そうではなく、母にとって、ようやく肩の荷が降りて、少しホッとしたんだと思う。
それは、父も同様だったと思う。

家長制度の息づいていた父母の時代。
夫婦の愛より、親への尊敬と忠誠心が
優先していた。これはわが家だけのものではなく、ほとんどの家であたりまえのことだった。

父は、ひとりっ子だったので、
とりわけその気持ちが強かった。
母が、弱音を吐いたり、愚痴たりしても
とりあわず、逆に諌められていました。
しかし、内心ではそうではなかったのかもしれない。

祖父母が死んでも、彼らへの畏敬の念は変わらなかったが、
母への接し方が率直になった。
父は、もともと人への思いが強い優しい人。
暇ができれば、母を旅行に連れて行き
洋服やバッグ、靴など、喜んで買ってあげていた。
母もそれに素直に喜び、ふたりに二度目の新婚時代が来たかと思い、子供の私の目から見ても
微笑ましく感じた。

その時撮った写真も多く残っている。
そこに写っている母の顔は
母の顔ではなく、
女の顔であり、妻の顔だった。