中古のRZ50で初めてハルナモータースポーツランドを走り、サーキットデビューしたのは多分1986年の夏。
仕事を辞めて無職ニートになったタイミングで1か月位ほぼ毎日ハルナ昼練に通い、その勢いでレースに出場したんです。
6位だったんですけど、エントリー台数がメチャクチャ多かったので、トロフィー貰えたんすよ。
でも働くのが嫌いだったんで金が底をついてしまい、その後は全く練習にも行けなかったんですね。
その後1年ほどトロフィー見ながらイメトレに励み、やっと職を見つけて1987年に発売されたばかりのNS50Fを買ってまたハルナで走る様になったんです。
そのNS50Fで初めて出たレースがハルナの耐久レース。なんと友人と組んでデビューウィン!
ちなみにその時の2位は、2022年全日本ロードレースでスーパーバイクを駆る国峰琢磨選手のお父さんと、その年のハルナ17インチクラスのチャンピオン、大久保修二君がRGガンマ50を走らせてるチーム。
それから暫くはNS50Fで練習に励んでたんですが、圧倒的に台数が多かったNSR50があちこちでハイサイドで転倒してるのを見て「ワイン・ガードナーみたいやん、かっこいい!」と思い、NSR50を追加購入。
タイヤが太くてホイールベースの短いNSR50は、当時のタイヤではハイサイドしやすかったんですね。
何回かNS50FとNSR50のダブルエントリーもしましたが、マシン2台だと整備などに手が回らず、ライバルが多くて盛り上がっているNSR50に専念することにしました。
当時自分のスタイルは、イン側に大きく体を入れ低く低く走るいわゆる「ハルナ乗り」でした。(ゼッケン24番が自分です)
このフォームだと時々縁石に肘が当たりましたけど、当時肘を擦るのがカッコいいという風潮は無く、それを芸として見せる人もいましたが、どちらかと言えばイロモノ扱い。
頭の位置をセンターから大きくイン側に入れるハルナ乗りは、邪道扱いされることも多かったんですが、青木ノブアツ選手の大活躍で、全国的な知名度を獲得してたんです。
じゃあ何でハルナ出身のライダーがハルナ乗りになったのか?それについて語らせてください。
ハルナ旧コースの最終コーナーは、巻きが深く長〜い複合高速コーナーで定常円旋回の時間が長く、途中で回転半径を小さく変えてCPに付き、ホームストレートに向け加速する、ちょっとクセの強いコーナーだったんです。
しかも、回転半径を小さく変える辺りから逆バンク気味になりグリップが抜けてしまうため、数多のライダー達をハイサイドで病院送りにする恐ろしいコーナーでもありました。
そんな最終コーナーの攻略法ですが、基本進入から脱出までスロットルはオンのまま。「定常円旋回の途中で回転半径を小さく変える」ために、スロットルオフはNGっす。その後のストレートが死んじゃうので。
じゃあCPに付けるためどうするかというと、上半身を思いっきりイン側に入れるんすよ。そうするとフロントタイヤの舵角が増し、スロットオンのままでも途中から向きが変えられるんですね。
で、コレを体が覚えてしまうと、どのコーナーでもこの形になってきます。コレがハルナ乗り発生の理由だったんですね。
当時ハルナの速いライダーは程度の差こそあれ、みんなイン側に上半身を入れるフォームで走ってました。
自分はハルナ乗りが最速最強の乗り方だと信じていたので、どんなに邪道扱いされても「これはイノベーション、最後は正義が勝つ」と信じ、それを世の中に伝える啓蒙活動の広報担当を自称していたんです。
その当時ハルナのノーマルNSR50のコースレコードは、青木3兄弟の次男として既に有名人だった青木拓磨選手が中学生の時出した42秒4。
中学の時は小柄だった体重40キロ位の拓磨選手に対し、その頃自分の体重は63キロだったんですけど、自分が同じタイヤ(IRC井上タイヤ)でそれに迫る42秒6を連発してたんすよ。
でもって、2年連続のシリーズチャンピオンをゲットしたので、当時ミニバイクレースの最上級ステージだったモトチャンプ主催のマルチ杯に参戦して、ハルナ乗りの優位性を証明する事にしたんです。
マルチ杯は秋ヶ瀬と、かつて四街道市に在った新東京サーキットでシリーズ戦が組まれていて、両方のコースとも白いコンクリート?舗装で、路面のミューが低いって特徴がありました。
そしてそこで目撃したのは、起き上がったお地蔵さんの様な上半身をリーンアウトにして走る、ハルナ乗りとは真逆のフォームのライダー達!
最初は思いましたよ。
おいおいココはジムカーナ場すか~w
しかし、いざコースインして一緒に走ると、そのジムカーナの選手みたいなフォームのライダーが、路面ミューの低いコースを信じられないスピードで走るんす。脱糞レベルで驚きました。
ジムカーナみたいなカッコのくせに高速コーナーも恐ろしく速い!トップライダーと自分のラップタイム差は1秒以上あり、全く勝負になりません。
慣れの問題だろうと、それからはほとんど毎週のように秋ヶ瀬サーキット、時々新東京サーキットに通って練習しました。
しかし、トップライダー達との差は全然縮まらないんです。
そしてマルチ杯出身のライダーは加藤大二郎やノリックを筆頭に、ロードレースでもあっさり上位に入る実力者ばかりだという事を知りました。
その一方、ハルナ出身ライダーは青木3兄弟以外、みんなロードレースでは苦戦してたんです。
~何が違うんだろう?~
トップライダー達の走りをコースサイドで見てると、コーナーのボトムスピード付近、アクセルONにする辺りで不自然なくらい大きく向きが変わります。
大きく向きが変わる時、フォームは上体が起きたリーンアウトで車体のバンク角が凄く深く、その瞬間のコーナリングスピードが遅めなのが特徴。そしてその後強烈に加速し、ストレートが速い。
定常円旋回の速度を上げることが全てだと思ってた自分の走りと全然違います。
マルチ杯を走るようになったばかりの頃「ボトムスピードが遅くてストレートが速いなんて、奴らのマシンインチキなんじゃね?」なんて思ったりもしてました。
そしてある時こんな事があったんです。
秋ヶ瀬サーキットで練習中、超トップライダー内田剛選手が仲間のマシンに乗って自分の前を走ってたんすね。
そのマシンはパワーが出てない様でストレートが遅く、後ろから付いていった自分が直線で差を詰めます。
ピタ付で走ってると、コーナーの真ん中あたりでお地蔵さんの様に起き上がった上半身はリーンアウトになり、一瞬遅くなって向きが変わったかと思うと、弾けるように加速して離れてしまいます。
ストレートに出切ると、自分のマシンの方がストレートが速いのでまた追いつくんすけど、コーナー立ち上がりでまた離れる、この繰り返し。
その時確信しました。
こういう乗り方があるんだ!
向きの変わり方は、例えるならパワースライドでリアが流れる感じ。車で言えば4WSでしょうか。もちろん50㏄なので、パワースライドなんてしてません。でもそう見えるんです。
一方で、仲間のハルナライダー達の走りをコースサイドで見ても、自分の走りをビデオで確認しても、そんなパワースライドみたいな向きの変わり方は微塵も無く、普通にマシンなりに曲がってる感じ。
その当時、2輪ロードレースの世界選手権、最高峰クラスはアメリカンかオージーライダーが席巻していて、彼らがよく語るキーワードに「リアステア」ってのがありました。「フロントで曲がるんじゃ速く走れない、リアタイヤで曲げるのさ」って言ってたのはケニー・ロバーツだったっす。
自分は、マルチ杯のトップライダーの不思議な向きの変わり方って、この「リアステア」なんじゃね?と思う様になったんです。
で、リアステアについて調べてたんすけど、なんかオカルトかブラセボみたいな説明か、ちっとも理解できない理論ばかり。納得できるものが無いんですね。仕方なく自分なりに納得のいく理屈を考えました。
一言で言うと、
パンクしたリアタイヤでコーナリング
です。
なかなか良くないすか?
リアに荷重を掛けリアタイヤが潰れた状態でコーナリングすると、遠心力でタイヤがたわみ接地面がずれる現象が回転で繰り返され、リアタイヤの走行ラインはコーナー外側に向かう。パワースライドと似て非なるものって感じでしょうか。
※あくまでも個人の妄想です。
追伸:2024/02 分かりやすい説明をゲットしたので新説
2輪用タイヤは、傾いてる時荷重で潰れる事によって、キャンバースラストを発生させるそうです。
キャンバースラストって10円玉転がす話と思ってたんすけど、そっちは「ジャイロ」らしく、キャンバースラストはこういう事らしいす。
直径の違う2つの車輪を軸で直結して転がしたら、小さい車輪の方に向かって旋回する
タイヤが潰れるほど、またバンク角が深くなるほど、2つの車輪の直径差が大きくなるイメージでキャンバースラストは強くなり、傾いてる方に旋回しようとする。
※信じるか信じないかはあなた次第です。
その頃のマルチ杯SP-12インチのトップライダーで、神がかった走りが印象的だったのは、前述の内田剛選手と、今も現役プロレーサーで活躍している、当時RSヨコタ所属だった山口辰也選手。
路面のミューが低かった秋ヶ瀬でのレース。公式練習を鬼バンクで走る山口選手 タイヤはTT90(多分)
彼は、全ケツハングオンと極端なリーンアウトの、ちょうどミック・ドゥーハンの左コーナーとよく似たフォームが特徴で、NSR50を超絶バンク角で走らせ、驚異的なコーナー進入速度を武器に、信じられないようなタイムを叩き出していました。
山口選手 1995年 秋ヶ瀬でのレース マルチ杯SP-12エキスパートクラス決勝
17歳位からわずか2年位のキャリアで、超絶ハイレベルなマルチ杯SP-12EXPクラスにおいて、94年に全戦優勝でシリーズチャンピオンを決めた本物の天才です。
そんな山口選手に最近、ミニバイク時代あんなに極端なリーンアウトだったのはナゼなのか聞く機会がありました。
彼曰く
「ビギナーの頃、お金が無くてツルツルになったタイヤを履いてNSR50で練習してたら、いつの間にかあの形になったんだよ。滑るタイヤをコントロールするには良かったよ。」
って教えてくれました。
ナイスガイですね。当時は雲の上の人だったので、話した事なんてありませんでした。
確かに、リーンアウトがタイヤの滑りに強いのは、サーキット走るレベルのライダーならみんな知ってます。
だとすればハルナ乗りは逆ですよね。実際、ミューが低い路面で実バンク角を深くしようと思っても、上手く出来ないんすよ。
山口選手の写真と同じコーナーの自分。ハルナの様に走れずバンク角が浅い。
なんか気合が空回りして、インに入る体の量が増えるだけなんです。
ハルナ乗りはパッと見バンク角が深く見えるけど、実際ホイールのバンク角 (キャンバー角)がかなり浅い。
加えて前傾姿勢が強くてリア荷重が少ないから、リアタイヤのキャンバースラストが弱い。
4輪の様にフロントタイヤの舵角(スリップアングル)に頼った曲がり方なんすよね(多分)
メリットは、重心が低いからミューの高い路面では、定常円旋回の速度を上げやすい事、それとタイヤ接地面積が大きい事だと思います。
実際ハルナ旧コースは定常円旋回の割合がメチャクチャ高いコースだったので、アドバンテージがあったと思います。
片やリーンアウト地蔵乗りは、ミューの低い路面でもバンク角を深くできる。
バンク角が深くてリア荷重なので、リアタイヤのキャンバースラストは強く作用する(きっと)
キャンバースラストの割合が高い分、ハルナ乗りと比べてフロントの舵角(スリップアングル)が小さくなるので、フロントタイヤの走行抵抗が弱く加速を邪魔しないし、プッシュアンダーも出にくい。
さらにタイヤの直径ってバンクするほど小さくなるから、バンク角が深い時ファイナルはショートになり、角度が浅くなるに連れロングに変化してくので、スクーターの無段階変速みたく立ち上がりでパワーを上手く使えて加速がイイ。
デメリットは重心位置が高いので定常円旋回のスピードを上げにくい事、タイヤ接地面積が小くなる事だと思います。
結局、2つの乗り方の違いって、極論すると定常円旋回を重視するか、加減速を重視するかっていう事なんじゃないかと。
思い出してみると、80年代から90年代、リアステアって言葉が話題になってた頃、WGP500で走るトップライダー達のコーナーリングフォームってみんな、腕が伸びて上半身が起きた地蔵乗りでしたよね~。
で、周回遅れにされる遅いライダー(多くはヨーロピアンライダー達)は決まって肘が曲がって、伏せてるコーナリングフォーム。
そんな事を毎日毎日、朝から晩まで考えてたんですけど、ある日決めました。
ハルナ乗り止めてリーンアウト地蔵にしる!
180度真逆の乗り方、リーンアウト地蔵乗りデビューです。
でもね~乗り方って簡単には変えられないんですよ。大人になってから始めた外国語が上手くならないみたいなもんすかね。
予想はしてましたが、乗り方を変えようとした事で遅くなり、へなちょこライダーになりますた。
「終わったロートルライダー」と陰口を叩くヤツが居たのは知ってたけど、乗り方変えるのは諦めなかったんすよ。
地元ハルナのレースでも上位には入るものの、優勝からは遠ざかった感じでレースを続けてましたが、2000年に家庭の事情とかなんとか適当な理由で引退。
~それから20年~
子供がレンタルカートに乗りたいって言うんでハルナに連れてったら、受付に
2020年10月のバイクレースコロナ禍だけど開催します
って告知が貼ってあったんです。
で、子供も観たいって言うから連れて観に行ったんすよ。それが2020年ノブアツ杯の最終戦だったんですね。
20年間バイク全く触った事も無かったんで、何もかもが新鮮!
え~まだNSR50走ってるじゃない!
GSX-R125とかいうバイク沢山並んでるけど、こんなデカいバイク、カートコースなんて走れるん?
あれ?バイク屋のナカムラ兄弟が現役で走ってる!じゃあ俺でも出来るかな~
なんて思いながら観てるうち、いつのまにか心の中でリターンする決意固まってたんですね。
気が付いたらどのバイクに乗るか考えてました。
GSX-R125ってカッコいいけど本気感MAXじゃん。
いい年こいたジジイがこんなイキッたバイク乗るなんて痛すぎて痛いから却下。
NSR50に乗ってたんだから12インチが良いかな?
NSR50って今手に入れるの難しいみたいだし~NSF100?
それとも、大人なんだから、ゆる~くやってる感じのGROM125かな~?
GSX-R125買いました
そして待っていたのは、20年の間にライディングの常識が真逆になっていたという現実。
邪道扱いされてたハルナ乗りは、肘すりライディングと名前を変え主流になり、みんながうわ言のように口にしてた「リア荷重」や「リアステア」誰も口にしてません。
なんだか箱を開けてしまった浦ちゃんの気持ち。
自分が思うに、今MotoGPなんかで肘すりが主流なのは、極太な超絶ハイグリップタイヤで物理的バンク角が足りないから、体をイン側に入れてバンク角稼ぐしか無いっていう事じゃいかと(空想)
そしてタイヤと電子制御の進化で、定常円旋回のスピードを上げる方が、リアステアを使うよりタイムが出しやすいって事なんじゃないですかね(妄想)
それを見たライダーを目指す子供たちは、必要かどうかは関係なく取り合えずあの乗り方真似するでしょうね、乗ってるマシンが30年前のNSR50でも。
流行ってヤツなんでしょうか。
でもミニバイクレースで使うマシンは電子制御無いし、物理の法則は変わらないし、昔と今で違うのはタイヤのグリップだけですよね?だとしたら流行りに乗っからなくても良くないすか?
今でもやろうと思えばハルナ乗り出来るんです。でも自分のGSX-R125のリアタイヤ、アマリングがあるんすよ。消さないと恥ずかしいから地蔵で行きます。
~ハルナ乗り、時代が30年早すぎた予感~