我が国における在胎22~25週で出生した児の合併症と予後
~ NRN (Neonatal Research Network)データベース解析報告 ~
【背景】
日本では1990年に流産の定義が「在胎24週0日未満」から「在胎22週0日未満」と変更されました。しかし、日本以外の国では在胎22週に関しては、その生存率の低さと後遺症の高さから治療を差し控える、又は両親と話し合って治療方針を決めている国がほとんどです。日本でも積極的に22週(時には21週)の治療をあたっているNICUもあれば23週以降、あるいは中には30~32週以降が対象という周産期施設もあります。対象週数は主に新生児科医の在籍数に左右され、専門医不足の施設では一般小児科医の応援によって運営されています。世界的に見て日本の新生児医療のレベルは高い水準を誇っています。在胎22~25週の救命率は20~30年前よりも明らかに向上していますが、「後遺症なき生存」(Intact survival)率は依然として高いとは言い難い現状があります。なぜなら児の未熟性に加えて、高度な医療レベルと多くのマンパワーを必要とするからです。以下、我が国の主な周産期施設のデータを集約したものを報告致します。勿論、施設間で差がありますが、症例数と成績はほぼ比例します。しかし、2024年4月から開始された「医師の働き方改革」によって新生児医療を含む医療全般の質・レベルが低下することが懸念されます。特に新生児医療は新生児科医による膨大な時間外労働によって支えられてきたからです。以下、新生児医療について少しでも理解が得られれば幸いです。
【22~25週で出生した児の主な合併症とその頻度・2020年集計】
22~25週児の体重はおよそ400~800gです。皮膚は非常に未熟で特に21~23週児はゼラチン状です。厳重なケアを行わなければやけどのように皮膚に重いびらんと感染症を生じます。このため入院時には点滴ルート確保は手足からではなく臍カテーテルを使用することが多いです。勿論、人工呼吸器も必要です。感染対策を含めた皮膚ケアも慎重に行います。栄養管理にも厳重な注意を払います。早い段階から高カロリー輸液を併用し、全身状態が落ち着いていれば経管栄養を進めていきます(壊死性腸炎予防のため原則母乳)。出生した児は、以下の様々なハードルを乗り越えながら、あるいは回避しながら退院を目指すことになります。入院期間は個人差が大きく予想が難しいですが、順調な経過なら出産予定日~少し過ぎた頃に退院できるかもしれません。しかし合併症の種類によっては生命への危険性、後遺症の可能性が危惧されます。この場合、小児外科医、小児脳神経外科医、心臓血管外科医などと連携をとりながら診療を行います。また退院しても自宅へ帰れず、他の特別施設への転院を余儀なくされたり、自宅に帰っても経管栄養や在宅酸素療法、人工呼吸器などを必要とする児が少なくなくありません。また残念ながら退院後に亡くなることもあります。
① 子宮内感染
・前期破水(PROM)、絨毛膜羊膜炎(CAM)などが原因となります
・22週35%、23~25週20%に合併します
・新生児敗血症、慢性肺疾患の原因になることがあります
② 新生児敗血症
・頻度は10~20%→抗生剤投与、免疫グロブリン投与、交換輸血などを行います
・生命予後、神経学的予後に重大な影響を及ぼす危険性があります
③ 呼吸窮迫症候群(RDS)
・肺の未熟性によります(肺胞表面活性剤であるサーファクタント欠乏)
・頻度は80%→薬剤(サーファクタント)の気管内投与、人工換気療法
・出生前母体ステロイド投与は予防効果が確認されています
④ 動脈管開存症(PDA)
・心不全、呼吸不全、腎不全、肺出血、脳出血、壊死性腸炎などの原因になります
・頻度は40~50%→うち50%は内科的治療、30%は外科的治療が行われています
・内科的治療(インドメサシン)の副作用:低血糖、腸管穿孔、腎不全など
・動脈管は内科的治療後に再開通することがあります。
・手術(動脈管結紮、クリッピング)では反回神経麻痺(声帯麻痺)を伴うことがあります
⑤ 肺出血
・動脈管開存症が原因となることが多いです
・頻度は5~10%で早ければ生後数時間で発症します
・脳室内出血を併発することがあります
⑥ 脳室内出血(IVH)
・通常生後72時間以内に発症します。脳室内出血が多いですが、脳実質に穿破することがあります。
・22~23週40%、24週30%、25週20%に合併→うち20%で出血後水頭症を合併します
・出血後水頭症に対して脳室ドレナージ(髄液の排出)やVPシャント術(皮下チューブを通して脳室内の髄液を腹腔内に排泄する)を行うことがあります
・出生前母体ステロイド投与によって頻度を下げられます
⑦ 壊死性腸炎(NEC)又は特発性腸管穿孔(FIP、LIP)
・原因:腸管の未熟性、動脈管開存症(治療薬剤インドメサシン)、敗血症など
・10%前後に合併
・治療:手術(腸管部分切除、人工肛門増設)、腹腔内ドレナージ留置など
⑧ 慢性肺疾患(CLD)
・肺の未熟性がベースにあり、長期の人工換気療法による肺損傷が原因となります
・子宮内感染が原因である場合は予後が悪くなります
・80~90%で合併→うち20~40%で在宅酸素療法が必要となります
⑨ 気胸
・5~15%で合併します。正期産児よりも重症化し易いです。
・呼吸窮迫症候群(RDS)の改善後や慢性肺疾患(CLD)に合併することが多いです
・緊張性気胸(呼吸悪化、血圧低下)の場合は胸腔内ドレナージを行います
⑩ 脳室周囲白質軟化症(PVL)
・原因:脳の未熟性、循環不全など
・2~5%に合併→脳性麻痺や発達障害の原因になり得ます。頭部エコーや、MRIで診断します。
⑪ 未熟(児)網膜症(ROP)
・原因:網膜血管の未熟性によります。定期的に眼科診察を行います。
・治療(レーザー治療、手術)を要するものは22週で40%、23~25週で30~35%
・22~23週では失明することが少なくありません。
⑫ 先天奇形
・5%前後に合併。うち手術例が10~35%あります
⑬ 退院時生存率
・22週60%、23週80%、24~25週90%
(うち、自宅へ帰ることが出来た例は85~90%)
⑭ その他合併症
・高ビリルビン血症(黄疸)
生後1か月頃まで間欠的に光線療法を行うことが多いです。時に重症黄疸となり輸血を必要とすることがあります。ビリルビン脳症(核黄疸)を合併することがあります。
・ハインツ小体性溶血性貧血
頻度は少ないですが生後2~3週頃に生じることがあります。原因は不明です。重症黄疸と高度な貧血を呈します(診断できる施設は少ないかもしれません)。
・低血糖
通常は糖の輸液で改善します。難治性の場合は特殊な薬剤を使用することがあります。
・高血糖
インスリンを使用することがあります
・晩期循環不全
生後1~2週頃に副腎機能低下によって生じます。ショック状態になることもあります。ステロイドや昇圧剤、輸液などで治療します。
・動脈管再開通
内科的治療、外科的治療(特にクリッピング)で生じることがあります。再度治療を要する場合があります
・新生児脳梗塞
大脳左半球に多く、生後2日以内の発症がほとんどです。小脳に生じることもあります。
・けいれん
原因は様々です。低血糖、低酸素性虚血性脳症、脳梗塞、脳の奇形、脳室内出血など。
・無呼吸発作
薬剤投与、人工換気で対応します
・未熟(児)貧血
鉄剤や造血剤(エリスロポイエチン製剤)を投与します。時に輸血を必要とします。
・くる病
予防的にビタミンD製剤を投与します
・後天性サイトメガロウイルス感染症
母乳や輸血によって感染することがあります。正期産児では無症状のことがほとんどですが、超低出生体重児(<1000g)の場合には時に重症化することがあります。母乳は冷凍することでウイルスをある程度不活化することが期待できます。
☆我国で在胎22~23週で出生した早産児の生存率
1995年 31% → 2005年 49%と向上しました
【22~25週で出生した児の3歳時神経発達予後】
~ 2003 - 2015年に22~25週で出生した児・NRNデータベース ~
※ データはhigh-volume centerによる
22週 23週 24週 25週
症例数 866 2476 3428 3980
生存率 50% 70% 80% 90%
後遺症なき生存率 (Intact survival)
10% 20% 25% 30%
視力障害 20% 15% 10% 5%
聴覚障害 <5% <5% <5% <5%
発達遅滞 50% 45% 35% 25%
脳性麻痺 20% 15% 10% 10%
※「後遺症なき生存」とは視力障害、聴覚障害、発達遅滞、脳性麻痺のいずれも合併しないものであり、分母は各出生週数における症例数(退院児生存例+死亡例)
※ 但し、退院後のフォロー離脱例は22週で20%、23週で30%、24~25週で40%あり、データにバイアスがかかっている可能性があります
① 視力障害の定義
・両側、又は片側の失明、弱視
・うち5%は全盲
② 聴覚障害の定義
・補聴器の使用を要するもの
③ 発達遅滞の定義
・DQ(発達指数)が70未満のもの(因みにDQの平均は100。70~80は境界域)
④ 脳性麻痺の定義
・GMFSCS分類class2以上(自力歩行は可能だが制限なく歩けない~電動車椅子を使っても移動が制限される状態)
・22~25週における脳性麻痺の原因の80%は、脳室内出血と脳室周囲白質軟化症
⑤ 行動障害
・原因としてASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠如多動症)など
・22週で30%、23~25週で20%に合併
⑥ てんかん
・22~25週の5%に合併。難治性のものも存在します(West症候群など)
⑦ 在宅医療
22~25週の場合、退院後10%で何らかの医療的ケアが必要となります。医療が必要な児のうち20%で人工呼吸器装着、10~30%で気管切開、40~80%で経管栄養(胃ろうを含む)、30~50%で(出血後)水頭症に対するシャント術を必要としています。その他、人工肛門増設、人工透析などを必要とする児がいます。
【最後に】
極低出生体重児における3歳でのNRNフォローアップ登録率は年々低下傾向にあり、スタディー開始当初の2003年は約50%でしたが、2015年出生児では25%まで低下してしまいました。それまで日本には極低出生体重児の神経発達予後に関する質の高いデータが存在しませんでした。この問題を解決したのが自治医大・教授の河野由美先生でした(大学を首席で卒業、しかも美人🥰)。NICUのドクターは多忙であり、しっかりフォローアップが出来ていないのでしょうか?あるいは登録を怠っているのでしょうか?親御さんがお子さんを連れてこないのでしょうか? NRNへのデータ―登録がなされなければ治療の成果がフィードバックされなくなり、治療の有効性が評価出来なくなってしまいます。
【引用文献、URL】
① NRN(neonatal research network)データベース
http://plaza.umin.ac.jp/nrndata/
② 河野由美:データベースからみた極低出生体重児の予後. 日本周産期・新生児医学会
雑誌 2020;56:203-212
③ Kohno.Y, et al.:Changes in survival and neurodevelopmental outcomes of
infants born at <25 weeks gestation:retrospective observational study in
tertiary centers in Japan. BMJ Pediatr Open 2018;2:e00021