🐶今週、食道亜全摘術後3年目の検査結果説明が…。少しドキドキです💦

 

🍀3年も経つと気になることがいくつか出てきました。

食道がんの疫学、発症の危険因子、関与する遺伝子変異…。

そして非飲酒・非喫煙女性でなぜ食道扁平上皮がんが?男性とは発症メカニズムが異なる?

ということで「調べてみたら」第2弾です。

 

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🍀食道がん、扁平上皮がんの原因としてアルコール喫煙が広く知られています。

特にお酒を飲むと赤ら顔になる「フラッシャー」と呼ばれる遺伝的素因の方は食道がん発生のリスクが高く、同時に咽頭がん、喉頭がんと関連することが知られています。

また腺がんGERD(ガード:胃食道逆流症)と肥満が主な原因。

 

🌱フラッシャーとは?

ALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)には3つのタイプがあり、ALDH2活性は遺伝的要素によって決まります。ALDH1と3は個人差が少ないですがALDH2は個人差が大きいのです。その差によってお酒に強いか弱いかが決まります。ALDH2が安定しているのが活性型(NN型)で自他ともに認める酒豪。2つ目は不活性型、あるいは低活性型(ND型)で分解能力が高いN型と低下したD型を持ちます。全く飲めなくはないがお酒に弱く、顔も赤くなり易いのです。

3つ目はALDH2が完全に失活した失活型(DD型)。お酒は全く飲めないどころか奈良漬けでも真っ赤に。ほとんどがフラッシャー。因みに日本人などの黄色人種の場合、活性型は50%、不活性型が40%、失活型が10%です。一方、白人や黒人はほぼ100%が活性型。この中で特に注意が必要なのは不活性型(ND型)と言われています。尚、これらは遺伝子検査サービスで検査が可能だそうです。

 

🐶食道外科の初診時、主治医から「○○さんはフラッシャーですね」と言われた。フラッシャー❓フラッシュダンス❓ラッシャー板前❓実はこの時初めて聞いた言葉。とても恥ずかしかった私…。🤣

 

【人種や男女差は❓】

食道がん、世界では6番目に多いがん。(日本では7番目)

その発生率と死亡率は男性の方が女性よりも2~3倍高いと報告されています。

また発症頻度が地域によって大きく異なることがWHOから報告されています。

 



☆扁平上皮がん

食道がんの組織型としては、世界的には扁平上皮がん(SCC)の頻度が最も高いです(日本では90%がこれで男女比は6:1)。扁平上皮がんはアジア~中近東、東アフリカで多く見られます。米国では黒人男性の発症率は白人の4~5倍、女性と比べて男性で2~3倍多いと報告されています。

しかし現在腺がんの割合が高い(扁平上皮がんの約2倍)米国では1970年代までは日本と同じで扁平上皮がんが多かったのです。ところがそれ以降GERD(胃食道逆流症)と肥満による腺がんが急増してきたのです。

 

☆腺がん

腺がんは北米と西ヨーロッパ諸国で多くみられます。米国では食道がんの約2/3を占めています。米国では主に白人男性に多く(黒人の4倍)現在急増中です。またあらゆる民族で男女問わず徐々に増加傾向にあります。

 

【食道がん発症の危険因子は?】

食道扁平上皮がんは食道中部、あるいは上部に多く、食道腺がんは食道下部、特に食道胃接合部に多く発生します。

 

☆扁平上皮がん(SCC)

扁平上皮がんの主な危険因子は2つ。アルコール>喫煙です。

アルコールは細胞内の代謝活動を低下させることで細胞内DNAにダメージを与え、解毒を阻害し酸化を促進します。そのためタバコに含まれる発がん物質は食道上皮をより容易に透過することが出来ます。

また特定の塩漬け野菜に含まれるニトロソアミンなどの発がん物質も食道扁平上皮がんに関与していると考えられています。

オランダのコホート研究(前向き追跡研究)では1日30g(日本酒1.5合)以上のエタノール摂取で禁酒者の4.61倍リスクが高まると報告されています。また1日15g以上のエタノール+喫煙者の場合、エタノール<5g/日に比べてリスクは8.05倍にも。

一方、腺がんではアルコールとの関連性は報告されていません。

 

その他の危険因子

・多環芳香族炭化水素(PAH)を含む大気汚染、赤肉、セレンレベルの低値、亜鉛欠乏、葉酸摂取量の低下、熱い飲み物、胃切除患者→リスク増加

・果物、野菜を多く摂取→リスク低下

 

☆腺がん

GERD、特に肥満によるGERDは16倍と高リスクです。あるいはダイエットや摂食障害による慢性的な嘔吐もその発症に関与します。

GERDを治療しないとバレット食道に進行する可能性があります。

バレット食道では通常、食道内側を覆う重層扁平上皮が円柱上皮に置き換わります。胃食道接合部における胃酸と胆汁の慢性的な逆流とそれに伴う食道の損傷がバレット上皮の発生に関与していると考えられています。

バレット食道は男性>女性、白人>アジア系、アフリカ系です。

バレット食道から腺がんへの進行に関してはがん抑制遺伝子TP53、細胞増殖遺伝子HER2(ハーツー:別名ERBB2)が研究されてきました。さらにはがん抑制遺伝子P16の変異に関しても。

肥満は食道腺がんのもう一つの危険因子であり、脂肪細胞からアディポサイトカイン(脂肪細胞から放出される生理活性物質の総称)が放出され腫瘍の増殖を促進させます。また脂肪細胞はそのエネルギーを供給し腫瘍の成長を促します。

 

【SCC・遺伝子変異やウイルスは?】

がんは様々な要因によって正常細胞のゲノムに異常が蓄積して発症することが分かっています。近年の大規模ながんゲノム解析から、突然変異の起こり方には一定のパターンがあることが明らかになってきました。こうしたパターンは「変異シグネチャー」と呼ばれ、喫煙や紫外線暴露といった様々な発がん要因によって異なることも知られています。中でも点変異のシグネチャーはSingle Base Substitution Signature(SBS)と呼ばれています。

Wuらによるゲノム解析では染色体5q11、6p21、10q23、12q24、21q22に7つの感受性遺伝子座が同定され、食道扁平上皮がん発症には複数の遺伝子座と遺伝子変異が関与していることが示唆されたと報告しています。

 

🌱変異シグネチャーとは?

がん細胞のゲノムに発生する様々な変異には、その要因によって異なるパターンを示すことが知られており、そのパターンを変異シグネチャーと呼びます。これまでヒトのがんにおいては50種類以上のパターンが知られており、そのうち3分の1はゲノム修復の異常、3分の1は環境要因によるものであることが判明していますが、残り3分の1は未だ原因不明のままです。

 

・HPVウイルスの関与が疑われていますが明らかにはなっていません。(男性の中咽頭がんと関連性あり)

・ピロリ菌は無関係であることが分かっています。

・掌蹠角化症(手のひらと足底の角質増殖をきたす希少疾患。遺伝的要素あり)

 →45歳までに50%、55歳までに95%で食道扁平上皮がんが発症。

 

☆2021年の日本を含む世界8か国の国際共同研究から ~食道がんの全ゲノム解析~

(🌱英国専門誌「Nature Genetics」2021年10月より)

国立がん研究センターはWHOを含む他の研究機関と共同で研究を行いました。計552症例で全ゲノム解析を行いました。

(48か国の内訳:日本、中国、イラン、英国、ケニア、タンザニア、マラウイ、ブラジル)

→結果、飲酒と言った生活習慣、アルコール代謝酵素(ALDH2)、BRCA遺伝子多型が食道がんにおける突然変異誘発に関係していることが明らかになりました。中でも飲酒関連の変異シグネチャー(SBS16)が、日本、ブラジルの食道がんで特徴的に多く、また飲酒歴のある患者さんではSBS16によるTP53(がん抑制遺伝子)変異が多く起こっていることも明らかになりました。



 

🌱BRCA:がん抑制遺伝子。遺伝性乳がん・卵巣がんの原因遺伝子として同定されました。また前立腺がん膵がんの発症リスクとの関連性も知られています。BRCAタンパクはDNA修復に関与しており、その異常によって染色体構造異常や突然変異を誘発します。

 

☆2024年4月・東北大学からのプレリリース・研究成果

マウスによる研究結果。

食道扁平上皮がんで、生体防御因子である遺伝子NRF2が高頻度に変異していることが明らかになりました。

今後はNRF2活性化に伴う悪性化の分子メカニズムが明らかになり、食道扁平上皮がんに対する新しい治療法の開発が加速することが期待されます。

 

【腺がん・遺伝子変異は?】

食道腺がん患者でHER2(ハーツー)陽性患者は予後不良と言われています(余談ですが、一定の条件を満たせば保険適応で予防的乳房切除術が可能)

☆Prinsらの報告

食道腺がん154名中HER2陽性患者は12%にみられその過剰発現は14%に見られたと報告されています。

 

🌸【アルコールを飲まない、しかも非喫煙者の女性がなぜ食道扁平上皮がんに⁉️】

男性の場合、飲酒と喫煙が食道扁平上皮がん発症の2大危険因子と言われています。

しかし、飲酒や喫煙歴のない女性でも一定の割合で食道扁平上皮がんを発症します。また食道扁平上皮がんの手術、あるいは放射線治療後の女性の予後は一般的に良好であることが報告されています。

では「非飲酒・非喫煙」女性における発症要因は?

 

☆最近、国内の異なる施設(山形大学、広島大学など)から2つの遺伝子変異が報告されています。



①CDKN2A変異の増加

 この遺伝子は「がん抑制遺伝子」であり、「非飲酒・非喫煙」女性でその変異が有意に増加することが判明しました。

尚、CDKNA2Aは膵がんの90%以上、乳がんの30〜40%で変異を有すること報告されています。

②KMT2D変異の減少

 この減少や欠失はゲノムの不安定さを増強することが知られています。「非飲酒・非喫煙」女性では有意に減少することが判明しました。

これら遺伝子変異は早期発見マーカーや新たな治療標的を発見する手がかりになると期待されています。

 

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🐶食道がん、「飲酒と喫煙が原因」とよく言われますが、その背景にはアルコール分解酵素の差と言う体質的なもの、人種、環境因子、遺伝的背景、男女差など多くの因子が関与していることが分かりました。特に女性では男性とは異なる発症メカニズムが解明されつつあるようです。

あっ、私の場合、MDM2増幅によりp53(がん抑制因子)が抑制されているのもサルコーマ、食道がん(前立腺も…。😰)発症の一因なのでしょうね。

また家系からみてBRCA遺伝子変異も持ってるよね。多分…。

🍀将来、食道がんのみならず、全ての悪性腫瘍で発現マーカーの差によって適切な治療法が選択され、予後の改善につながることを切に願います🎗️

 

🐶7月はサルコーマ啓発月間です🎀🎗️


【7/10追記】

🌱肺がん。同じく「喫煙🚬」が原因とは限らない…。


 

🎗️参考・引用文献・URL

1.MedScape・esophageal cancer

2.Moody S. et al. Mutational signatures in esophageal squamous cell carcinoma from eight countries of varying incidence. Nat Genet. 2021; 53 :1553-1563

3.Onozato Y.et al. Novel genomic alteration in superficial esophageal squamous cell neoplasms in non-smoker non-drinker females. Nature portfolio. 2021;11: 20150

4.Fukuhara M. et al. Clinicopathological and genomic features of superficial esophageal squamous cell carcinomas nondrinker, nonsomoker females. Cancer Med. 2024; 13: e7078

5.MSDマニュアル(プロフェッショナル版)・食道がん

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