民営化とか自由化とかいったら聞こえはいいけれど、もともと国が税金を使って国民のためにやっていた事業を、企業が自分の利益のためにやるようになったのだ。安定した雇用を確保することも、安くて快適なサービスを提供することも、企業の利益にとってはそれほど重要なことではない。ほとんど完全な独占事業であれば、なおさらのことだ。
EUを挙げてAIに対応したメーターを導入するようになってから、窓口の従業員もどんどん減っていって、近くのサービスセンターは閉鎖になるという。前は大勢の人が働いていて活気があったし、何より人間的な対応があった。だけどしまいには、一人か二人が窓口にいるだけで、それも何だか不親切だし、いかにもつまらなそうに仕事をしている。
前はお客さんの要求に合わせて、自分で考えてアレンジしてあげるようなことができていたのに、今はそんな自由を与えられてはいないようだ。融通がまるきり利かなくなったし、だから仕事していても、面白くも何ともないのだと思う。お客さんに喜んでもらえるようなこともないし、上からの指示通りに動くことしかできなくなった。それでもまだ仕事があるだけいいと思うしかないのかもしれない。
サービスセンターが縮小していく一方で、AI化したメーターの導入には、十分すぎるくらいの人員を使っているらしくて、メーターを取り替えろという電話は何度もかかってくる。それがだんだん恐喝みたいになっていって、一年前くらいからは交換を拒否する消費者に対して訴訟が起こされるまでになった。
昔ながらの回転式のメーターなら、半永久的に問題なく使えるのに、繊細な電子機器のメーターに取り換えなければいけないというのだ。メーターも交換もただでやってくれるから、消費者はお金を払う必要はないのだけれど、やっぱりそれも電力料金から出しているのだろうから、どのみち払ってはいるのだと思う。
しかも、半永久的に使えるようなメーターとは違って、10年ごととかに新しいものに取り換えるらしい。電力会社は何のためにやっているのか知らないけれど、メーカーにとってはものすごい売上になることは確かだ。メンテナンスやデータ処理にも経費がかかるはずだから、それも含めたら、請け負う会社は莫大な利益が約束されることになる。
ソ連崩壊後のロシアや東欧では、やはり公共事業が一気に民営化された結果、公共料金が高くなった一方でサービスが悪くなり、まともに機能しないような状態になっていたそうだ。雇用がなくなり、貧困化して、治安が悪くなった。今ヨーロッパで起こっていることは、それほど急激ではないけれど、要するに同じことのように思える。国が国民の生活のためにやっていた事業が、企業の利益追求のための事業に取って代われば、雇用削減して料金が上がる。消費者のためよりも利益が優先だから、便利で確かな製品を導入しようとする代わりに、経費がかかっても欠陥があっても、腐敗のお金がまわる企業の製品を導入しようとする。
この数年で、製薬ロビーが国際NGOを使って政治工作し、税金で製品が全国配布されるようにしていたことなどが表に出てきていた。この場合も、利益が第一なので、安全性や効果などはどうでもいいのだ。そうしたことが社会問題にならないよう、認可や監査に関わる政府機関も巻き込んでいた。要するにそうやってモノポリー状態にしてしまうわけなのだけれど、モノポリー状態ができるほどに、巨額の資金が入ってくるようになり、それで工作に使うお金がさらにまわるようになる。この悪循環で、搾取がどんどん激しくなり、世の中はまるで血の気が失せたようになっていく。それでだんだん物騒になっていたのか、電力会社のサービスセンターも、二人だけ残っていた窓口要員を、身体の大きい強そうな警備員がガードしていた。役所の入り口も、前は案内の人がいたのに、今は警備員になっていて、建物に入ってくる人たちの危険物チェックをしている。何かと不親切になって、搾り上げられるようなことになっていたら、暴力をふるう人だって出ることだろう。住民のために働くのではなくて、上からの指示でモノポリーの利益のために働かされるようなことになっているのだろうから。
今、世界的にこれまでの支配構造が崩れていこうとしているから、こうしたことも、おそらくはそのプロセスの中で起こっていることなのかもしれない。その中で、もはや電力供給に依存していたらどうにでもされてしまうという事態になって、オフグリッドに移行しようとしている人が増えている。