繊維産業が盛んで日本企業のアパレルメーカーの服も多く生産しているバングラデシュでは今年の7月から「公務員採用枠」への反対を訴えて大規模な反政府デモが起こって少なくとも400人が死亡、首相のシェイク・ハシナ氏は辞任してヘリコプターでインドに逃げるという大混乱状態になっています。このクーデターについてですが、やはり米国の関与が強く疑われるものになっています。まずは「バングラデシュ」と言っても地理的にピンとこない方もおられるかと思いますので場所を下の地図でご確認ください。

バングラデシュは、かつては「東パキスタン」といわれていてインドがイギリスから独立した1947年ヒンズー教徒が多いインドに対しパキスタンはイスラム教徒が多い国としてインドを挟んで西側が西パキスタン、東側が東パキスタンというふうにパキスタンの領土がインドを挟んで飛び地になっていました。1971年パキスタンからの東パキスタンの独立戦争が起きて(その時パキスタンと対立するインドは東パキスタン=バングラデシュの独立を支援)インドが軍事支援する東パキスタンが勝ったので(第三次印パ戦争)独立して国名もベンガル語で「ベンガル人の国」を表すバングラデシュとして独立しました。今回バングラデシュで大規模なデモ活動が起こったきっかけは大手メディアのニュースでは「公務員採用枠をめぐる問題」だとされています。バングラデシュでは1971年のパキスタンからの独立戦争に加わった兵士の子息らに公務員採用枠の3割を割り当てる措置が以前からあって政府は2018年にこの制度の廃止を決定していたのですが高裁が今年6月これを覆す判断を出したことがきっかけでデモが起こったとされています。※その後最高裁は「公共部門の仕事の93%は能力に基づいて採用し5%は独立戦争の退役軍人の家族に残し残りの2%は少数民族と障害者の雇用に充てる」ことを命じました。しかしどうもおかしいのは学生を中心とした大規模なデモは「本当にそれだけの理由か?」ということです。そして辞任に追い込まれたシェイク・ハシナ首相はこの「パキスタンからの独立戦争に加わった兵士の子息を公務員採用で優遇する」というのを2018年に廃案にしていたわけで、それでもデモが制御できないほどに拡大するというのはやはり「何か」があるのでは?とも疑いたくもなるものです。今回首相を辞任してヘリコプターでインドへと事実上亡命したシェイク・ハシナ元首相のコメントが掲載されているニュースをご紹介します。ロシアのメディアRTが報道しているものです。※ちなみに、ロシアはバングラデシュに対して米国による「カラー革命」の可能性があると2023年11月の時点で警告していました。

バングラデシュのクーデターは、追放された首相の軍事基地拒否に対する米国の報復だった。シェイク・ハシナ氏は今週初めに暴力的な抗議活動により辞任し国外逃亡を余儀なくされた

今週初めの大規模な抗議活動により辞任を余儀なくされ国外逃亡したバングラデシュのシェイク・ハシナ元首相は自身の解任に米国が関与していると非難した。エコノミック・タイムズが引用した日曜のメッセージの中でハシナ首相はバングラデシュに米軍基地を建設することに同意していれば権力を維持できたかもしれないと示唆した。「私は死体の行列を見なくて済むように辞任した。彼らは学生の死体の上に権力を握ろうとしたが私はそれを許さず首相を辞任した」とハシナ氏は語ったと伝えられている。もし私がセント・マーチン島の主権を放棄しアメリカにベンガル湾の支配権を与えていれば私は権力を維持できただろう。国民の皆さんどうか過激派に操られないようにお願いします。ハシナ氏はベンガル湾北東部にあるバングラデシュの珊瑚礁の島と米国がこの島を支配しようとしたとされる試みについて言及していた。過去数カ月間バングラデシュ当局者らは米国が何度もこの島の賃貸を提案したが拒否されたと主張していた。ハシナ氏は米国当局者を指す彼女の呼び名である「白人」が前回の選挙前に彼女と面会しセント・マーチン島の空軍基地建設への支援を求めたと述べた。15年間にわたり公職を務めた76歳の政治家は8月5日の辞任後、隣国インドに逃亡した。彼女は「全能のアッラーの恩寵によりすぐに」ダッカに戻ることを誓った。ハシナ首相の失脚は与党とつながりのある人物を優遇していると批判されていた政府職員の割り当て制度に反対する学生主導の全国的なデモが数週間続いた後に起きた。抗議活動は平和的に始まったがすぐに暴力的になり報道によると400人以上が死亡し約1万1000人が逮捕された。ハシナ首相が辞任した直後ワケル・ウズ・ザマン参謀総長は暫定政府を樹立すると発表した。マイクロクレジットやマイクロファイナンスの概念を先駆的に提唱したことで知られるノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が8月8日に暫定政府のトップに就任した。最初は平和的だったデモが暴徒化するというのは米国主導のカラー革命によくあるパターンですね。2014年のウクライナのマイダン・クーデターがまさにそうでその「暴徒」の中心は米国が育ててきた過激派だったり外国から動員された人たちだったというのがウクライナの場合、判明しています。そしてクーデターの後の暫定政権は決まって親米派の方が(米国から)指名されるという流れが今回もあって、それがウクライナでの2014年マイダン・クーデターに似ています。そして辞任したシェイク・ハシナ首相はイスラム教徒なのですがバングラデシュには人口の8%ほどがヒンズー教徒です。そのヒンズー教徒の人たちがこの暴動の直後から多数派のイスラム教徒から暴力を振るわれており迫害を恐れて4000キロの長さで国境を接しているインドに流れ込んできています。(ヒンズー教徒が多いインドですがバングラデシュからやってくる避難民を受け入れたくないようで国境で見つかると逮捕しているようです。)そしてバングラデシュの不安定化の糸を後ろで引いているのがアメリカだとすればこの混乱はロシアとの関係を深めるインドが気に入らずインドの銀行への制裁にも関わらずロシアを重要視するインドへの「アメリカの懲罰」という見方もあります。

バングラデシュの長期首相を倒した政権交代の流れを分析する

物議を醸している政府職員割当制度を司法が再導入したことに抗議する学生主導の抗議活動が当初は平和的に始まった今年の夏の始まりから最終的にこの国の長年の指導者をインドへの命からがらの逃亡に追い込んだ都市テロの連続発生に至るまですべての経緯を以下に紹介する。バングラデシュについて政権交代を経験したばかりの南アジアの国であること以外一般のニュース視聴者はあまり知らない。しかしバングラデシュは人口第8位の国であり世界最大級の繊維産業と非常に戦略的な地政学的地位を有している。バングラデシュはインド北東部の諸州と国境を接しておりこれらの諸州は「チキンズ ネック」によって「本土」とつながっている。この「チキンズ ネック」の幅は最も狭いところでわずか12~14マイルでこれらの諸州のいくつかは長年民族分離主義の騒乱に悩まされてきた。

(上の地図:「チキンズネック」と呼ばれているシリグリ回廊は赤くハイライトされた円で囲まれたインド領土の帯の部分を表す)元バングラデシュ首相シェイク・ハシナ氏は中国や米国と緊密な関係を築いていたにもかかわらず事実上インドの同盟者だった。ハシナ氏はインドのナレンドラ・モディ首相の地域開発構想に共感しインド北東部諸州との貿易を円滑にするためバインドに自国の通過許可を与えた。さらにハシナ氏はインド政府がテロリストと指定する関連過激派グループにバングラデシュが利用されるのを防ぎ宗教過激派も取り締まった。彼女の指導の下バングラデシュ経済は急速に成長したが国内の安定を保つために強硬手段に訴えたため反対派に対する政府の訴訟を「反民主的な法廷闘争」とみなすイスラム主義志向の若者が急増し彼らは憤慨した。治安当局の物議を醸す戦術は意図せずして国内の反対勢力を悪化させ最終的には彼女の多極的バランス調整行動に不満を募らせていた米国による標的型制裁につながった。過去14カ月間でハシナ氏とアメリカとの関係は悪化した。2023年4月にハシナ氏はアメリカが政権交代を扇動していると非難し続いてロシアは11月に野党がボイコットした2024年1月の選挙でカラー革命を画策する可能性があると懸念を表明した。3カ月足らず前ハシナ氏は基地設置要求を拒否した後、この地域にキリスト教の代理国家を作ろうと企んでいると西側諸国はアメリカであると強く示唆した。その後まもなく高等裁判所は6月下旬2018年に違法とされた物議を醸した政府雇用割当制度を復活させた。これがきっかけとなり国民の大部分が街頭に出てこの決定に反対するデモを行った。この運動は当初学生によって推進されていたが野党の日和見主義者、西側で育った市民社会、宗教過激派によってすぐに取り込まれ今週の彼女の辞任と逃亡に至った。前述の分析は一連の政権交代が起こったことを記録しそれは割り当て制が縮小された後も続き暴徒たちが、多数の暴徒が議会と宮殿を襲撃するのを防ぐために軍が致死的な武力に訴えることはないだろうと賭けたことで成功した。反対派、宗教過激派、外国軍と関係のない平均的なバングラデシュ人も国家による「抗議者」への暴力の文脈から切り離された映像に激怒しそれに参加した。この戦術はカラー革命の特徴であり暴力的な暴徒によって使用された。暴徒の多くは野党のバングラデシュ国民党(BNP)の禁止されたジャマーアテ・イスラミ(注:バングラデシュの独立と共に組織されたイスラム原理主義組織。パキスタン軍の作戦に関与しベンガル民族主義者や解放派知識人に対する弾圧や粛清に非常に深く関わっていた為、2013年国政選挙への参加を拒否されている)の同盟者であると疑っており治安部隊は街の安全を回復するための最後の手段として致死的な武力を使用するよう挑発された。この映像を見た後に暴動に参加した人々は治安部隊が平和的な抗議者を殺害することを恐れて前述の手段を繰り返すのを阻止するための無意識の「人間の盾」となった。ソーシャルメディアは禁止され夜間外出禁止令が出されていたにもかかわらず多くの人がその映像を目にし制御不能な数の怒った市民が街頭に溢れ出たため治安部隊は先ほど述べたようなジレンマに陥り撤退に追い込まれた。ハシナ氏は治安部隊に自分を守り自分が率いる政府を支えてもらうことは期待できないことが明らかになると逃亡した。その後報復的な政治的暴力とヒンズー教徒の少数派に対する攻撃が続いた。インドはバングラデシュがBNP(バングラデシュ民族主義党)政権時代の非友好国に戻る可能性を懸念している。そうなるとこの新興大国に対する大規模な代理戦争の一環としてインド指定のテロリスト集団を再び受け入れることになるかもしれない。パキスタンのインドに対する憎悪はよく知られており中国はインドとの激しい国境紛争に巻き込まれており米国はインドがロシアを捨てて中国に代わって戦うことで従属国となることを拒否していることに激怒しており、この3カ国にはインドをこのように罰する理由がある。したがって両国の利益がバングラデシュで合流しインドの国内安全保障と領土保全に深刻な脅威をもたらす可能性がある。最悪のシナリオでは両国の政策の複合的な影響は協調して実施されるか個別に実施されるかにかかわらずインドの大国としての台頭を妨害することになり新冷戦における大きなパワープレイとなるだろう。それが起こるかどうかはまだ分からないが近隣諸国のこの危機を注意深く監視しているインドもそれが起こる可能性を排除できない。インドに友好的だった首相のシェイク・ハシナ氏が辞任してバングラデシュがイスラム民族主義政党によって不安定化することはインドにとっては負の影響しかないわけであってこれはインドに「ロシアの石油やガスを買うな」と何度も警告してインドの銀行には制裁まで課してきたアメリカにとっては「懲罰」の意味があります。またインドと敵対するパキスタンにとってはインドの不安定化はメリットがあります。(パキスタンはかつての自分の領土の一部をインドとの戦争に負けたことで失ってそれが現在のバングラデシュになったという経緯があるのでインドはパキスタンにとっての「天敵」のような存在でしょう。)インドとの間で国境紛争を抱えている中国はどうかと言うとハシナ首相が追い出された事は決してハッピーな事ではありません。というのはベンガル湾の島に中国に睨みを効かせる目的で米軍基地として賃借するのを拒否していたのは中国、インドの両方に友好的だったハシナ首相だからです。このクーデターを一番不快に思っているインドはあくまでも自国の国益第一でウクライナでの戦争以降もロシアとの関係を強化してロシア産原油の精製→転売ということでも儲けてきました。またインドは軍事的にもロシアとは切っても切れない縁です。戦闘機や兵器の多くはロシア製ですしインドは「非同盟」とは言っても中国とは国境紛争を抱えていますのでいざというときに紛争の仲介役もできて兵器支援もしてくれるであろうロシアとの関係をインドはとても重要視しています。そのインドを懲罰的な形で「西側のロシア制裁に従え」と圧力をかけているというのが米国が背後にいると思われる、このバングラデシュでの暴動のもう1つの見方です。下のビデオでも地政学の専門家のアレキサンダー・メリキューリス氏がそのように発言しています。