高度成長期に入り、みんな豊かになるとこの「貧者の共同体」は割とあっけなく崩壊した。郊外に家を買った人たちは黙って町内を出てゆき、何年間も実の兄弟姉妹のように親しく暮らしていた町内の子どもたちの消息を私は誰一人として今は知らない。それから長い間「一人でも生きてゆける時代」が続いた。それだけ日本社会は豊かで安全だったのである。でも、また日本は貧しくなり、行政の手が届かず、小さい子どもたちの面倒を年長の子どもが見なければならない時代がやってきた。そのとき自分を「子どもの世話をする年長者」だと感じる人たちが出てきた。橋本治はそういう人を「原っぱのお兄ちゃん」と呼んでいた。

今後日本は再び貧しい時代に入ってゆくが、相互扶助は復活するのだろうか。その答えは人工減少と過疎なのかも知れない。