「夢が未来の出来事を予知する」という驚くべき可能性について、アメリカの研究チームは驚くべき発表を行った。

 眠っているラットの脳を覗き込んだところ、ニューロンが最近起きた過去の経験の記憶を残そうとする一方で、新しい経験の記憶を調整していることを発見したという。

 この研究が重要なのは、睡眠中に生じた神経可塑性を直接観察することに成功した事例だからだ。それはまるで夢の中で未来を予知しているかのようだったという。

睡眠中のニューロンは何をしているのか?

 特定のニューロン(神経細胞)は特定の刺激に反応して発火する。たとえば、視覚野のニューロンなら、適切な視覚刺激に対して発火する。

 ミシガン大学のカムラン・ディバ博士らが試みたのは、この視覚に特化したニューロンが、新しい経験をもとに”世界のイメージ”(表象)を作り出すプロセスを調べることだ。

 具体的には、研究チームは「リップル波(海馬で発生する100から200ヘルツの脳波)」という神経活動パターンを追跡した。このパターンに、経験のどの部分を記憶に残すべきなのか目印をつけるなど、新しい記憶を定着させる役割がある。

 今回の研究が画期的なのは、睡眠中のニューロンが空間的表象を安定させるプロセスを観察しているところだ。

 ライス大学のケイレブ・ケミア博士は、「目が覚めると、問題の理解が深まっているという経験は誰にもあるでしょう。だから一部のニューロンが、その表象を変化させるのではないかと想像していました」と話す。

 だが、それを証明するには、睡眠中のニューロンがどうやって空間的な表象を調整しているのか観察する必要があった。
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ラットを使って夢の中のニューロンの働きを追跡

 そのために研究チームはまず、両端におやつ(報酬)があるレールにラットを乗せて往復させ、そのときに海馬の各ニューロンがどのように”スパイク”するのか観察した。  こうしてラットを何度も往復させつつ平均的なスパイクを計算することで、レールの中でニューロンが”一番気にしている場所”を推定する。

 次に今度は眠っているときのニューロンがどこを気にしているのか調べるために、個々のニューロンの活動をほかすべてのニューロンの活動と関連付ける。

 さらに機械学習を利用することで、ニューロンの活動からラットがどこにいる夢を見ているのか推定する。こうしたデータから、各ニューロンの空間の表象の調整プロセスを推測するのだ。

 「刺激がなくてもニューロンが優先している場所を追跡するための方法は、私たちにとって重要なブレークスルーでした」とディバ博士は話す。

ニューロンは経験の記憶を安定させる他に予知も行っていた

 これによって明らかになったのは、新しい環境を経験したことで作られた空間の表象を、ニューロンがその後数時間の睡眠でも安定して保っているということだ。

 だが、ニューロンはただ経験の記憶を安定化させるだけではなかった。一部のニューロンは、別のことをしていたのだ。

 そうした睡眠中に起きる”学習”は、ラットをもう1度レールに戻してみるとわかる。睡眠中に学習したことがラットの行動に反映されているからだ。

 ケミア博士に言わせれば、それはラットが眠っている間にまたレールに戻っていたようなものだとか。

 これが重要なのは、睡眠中に生じた神経可塑性を直接観察した事例であるからだ。それはまるで夢の中で未来を予知して、学習したかのように見えるという。この研究は『Nature』(2024年5月8日付)に掲載された。