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前年所得にかかる住民税の徴収は通常、6月にスタートする。しかし今年は、「定額減税」が行われるため、例外的なスケジュールとなる。実は、このイレギュラーな徴収により、「減税なのに手取りが減る」可能性がある。住民税の仕組みと、今年ならではの注意点を解説しよう。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)

所得税とは「ズレ」がある

住民税の課税タイミングは?

 6月は「住民税月間」と言えるほど、住民税にまつわる記事が多く掲載される。注目が集まる要因は、新年度分の徴収が6月から始まることにある。

「税金は難しい」と感じている人は多い。中でも住民税は、所得税が確定する流れでほぼ自動的に税額が決まるせいか、仕組みをよく分かっていない人も少なくない。

 今年は定額減税があり、所得税のみならず住民税も減税対象なので、これを機会に住民税を理解しよう。

 みなさんが混乱するのは、住民税の課税のタイミングだろう。所得税の課税との「ズレ」が半年ほど発生する点をしっかり押さえておきたい。

 まずは、図を基に住民税の課税の仕組みを解説しよう(下図は給与所得者のケース)。

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 税金は1月1日から12月31日に発生した所得にかかる。これが基準となる。

 2023年の所得を例にとると、所得税は23年1月から、扶養家族の人数などから割り出した源泉徴収額を毎月の給与とボーナスから「仮」の金額として天引きされる。年末調整または翌年3月15日までの確定申告により、過不足を調整し、正確な所得と所得税が確定する。

 確定した23年分の所得の情報は、納税者が住んでいる自治体へ送られ、24年5月に各人の住民税が計算された「2024年度住民税決定通知書」が勤務先に送付される(役所文書なので実際には令和6年度と明記されている)。

 勤務先は、6月から翌年5月まで12回にわたって「前年分の所得にかかる住民税」を給与天引きする(住民税はボーナスからの天引きはない)。

「減税」なのに

1回の天引き額が増える謎

 住民税の課税の仕組みはこのようになっているが、今年は定額減税があるので、イレギュラーな徴収が実施される。

 定額減税そのものの仕組みについては、前回のコラム『「えっ、減税された分を返すの…?」6月スタート!定額減税の意外な落とし穴、要注意な人とは?』を参考にしてほしい。

住民税の定額減税は、本人と扶養家族(合計所得48万円以下)1人につき、1万円だ。扶養家族のいる人は、本人が家族の分をまとめた額の減税を受ける。

 住民税は、通常は6月~翌年5月の12カ月に分けて天引きされる仕組みだが、今年は6月分を徴収せず(天引きゼロ)、定額減税を反映させた年額を7月~来年5月の11カ月に分けて天引きすることになった。これが今年ならではのイレギュラーな点である。

 定額減税の法案が3月末に成立してから数カ月しかたっていないので、自治体のシステム改修や企業の対応が間に合わず、通常通りの6月から給与天引きに対応できなかったのだろう。

 自治体には多額のシステム改修費と膨大な作業負担が発生しているが、減税なので税収は減る。気の毒なことだ。

 前述のように住民税の減税は1人につき1万円で、11カ月間で減税を受けると、ひと月当たり約909円が安くなるだけ……。物価高対策としてはややしょぼい金額だ。

 しかも、住民税は本来12回の給与から天引きされるところ、今年は11回になるので、減税があっても1回当たりの天引き額自体は増えてしまう。

 年収800万円の人(税務上の扶養家族はなし、ボーナスは1回月収2カ月分)を例に試算してみた。

 減税前の住民税額は43万9100円で、12回で天引きされると、ひと月当たり3万6591円となる。

 今年、1万円の減税を受けると住民税額は42万9100円で、11回で天引きされると、ひと月当たり3万9009円だ。

 11回で割るため、1カ月当たりの天引き額は約2400円も増えるという不思議な事象が発生することになる。減税なのに……。

 一方で、定額減税がスタートする6月の給与は、所得税の減税(3万円×本人+扶養家族分)が実施され、住民税の天引きはゼロ円なので、手取り額はかなり増える。

関連するビデオ: KNB記者が解説 定額減税の仕組みは (KNBニュース)

KNB記者が解説 定額減税の仕組みは

 所得税の減税で引ききれない分は、翌月以降に繰り越されるが、所得税の減税が済むと、住民税額を11回で割ることにより1回あたりの天引き額が多くなり、手取り額が減る事態に陥る。

 定額減税の旗振り役である岸田文雄首相は、国民に減税を実感してもらいたいと、実施直前の5月20日に企業に対し給与明細に減税額を明記せよとお達しを出した。

 ただ、今回の定額減税の仕組みだと、手取りが増えてありがたみを感じることができるのは、住民税が引かれない6月だけ。昨年と月収や家族構成が変わらなかったら、7月以降は逆に手取りが減る人も出てくるだろう。なんだかなぁという施策だ。

課税タイミングのズレで生じるショック!

定年後再雇用で手取り額20万円を切る人が続出?

 さて、ここからは住民税の「知っておきたい注意点」を見ていこう。

◆役職定年、再雇用で年収が大きくダウンした人は、手取りが大幅減!

 冒頭で「住民税の課税は半年以上遅れてやってくる」と書いたが、役職定年や再雇用で前年より年収が数百万円減る人は、この仕組みに泣かされるので注意が必要だ。

 月収が大幅に下がったとしても、高かった年収にかかる住民税が天引きされ、「新入社員の給料か!?」と思うほど手取り額が少なくなる。しかもその期間は思いのほか長く続く。

 例えば、定年前の年収が800万円の人が、再雇用で年収300万円になったケースでは、額面月収25万円(ボーナスなし)の手取り額はなんと約17万円。給与明細を見て驚愕するだろう。働く意欲がそがれるかもしれない。

 給与を受け取る限り、住民税は給与天引き(特別徴収)が原則とされているので、給与からではなく自分で納付(普通徴収)に切り替えることは難しい。

 残念ながら、対策は「知っておくこと」だけである。手取り額が大幅ダウンする前に家計のスリム化に取り組むしかない。

◆ふるさと納税のやりすぎに注意

 また、「医療費が多額にかかる年に、ふるさと納税をしすぎて控除の上限額を超えてしまう落とし穴」にも注意したい。

 ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすると、寄付した額のうち2000円を超える部分について、所得税や住民税の控除が受けられるというもの。所得により控除を受けられる上限が決まっている。

 ふるさと納税をする人は、ふるさと納税のポータルサイトなどにある「控除額シミュレーション」のページで、自分の寄付上限額を試算しているだろう。

 医療費が多額にかかり、医療費控除をする年は、その控除額も反映させてシミュレーションしないと、ふるさと納税の控除額上限を超えてしまう可能性がある。

 出産費用や歯科のインプラント費用がかかった年は、医療費が高額になるので、ポータルサイトのシミュレーターは年収と家族構成のみで控除額を算出する「簡易バージョン」ではなく、各種控除も反映できる「詳細シミュレーション」を使おう。

 ふるさと納税をして控除を受けるには、原則として確定申告をする必要があるが、会社員など給与所得者で、もともと確定申告をする必要がなく、納税先の自治体が5カ所以下であれば、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用して確定申告なしで控除を受けられる。この場合は、住民税から税額控除を受けることになる。

 しかし、医療費控除を受ける場合は、確定申告が必要なので「ワンストップ特例制度」を利用することができないことも知っておきたい。

iDeCoやマッチング拠出で

保育料が安くなる!

 最後に、住民税にまつわるお得情報をお伝えする(一つだけで申し訳ないが)。

 子どもを保育園に預けている人は、iDeCo(個人型確定拠出年金)や勤務先のDC(企業型確定拠出年金)のマッチング拠出を始めると保育料が安くなることを知っておきたい。

 保育料は、住民税の所得割の額に応じて算出される。つまり、住民税が少ないと保育料も安くなるということ。

 iDeCoとマッチング拠出の掛け金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となるため、所得税や住民税の軽減効果がある。

 現在3歳から5歳の子どもの保育料は無償化が実施されているが、0~2歳までは保育料がかかる。今年はNISAが拡充したこともあり、NISAに関心がいきがちであるが、併せてiDeCoやマッチング拠出の利用も検討したい。