子供時代に経験したことが、脳にどのような影響を与えるのか?オランダの神経科学者がそれを確かめてみたところ、”逆境”が脳の構造を永久に変化させてしまうことが判明したそうだ。

 なお、ここでの逆境とは、人生における困難な出来事とは少々意味合いが違うかもしれない。

 「妊娠中の母親の喫煙」「出産時の合併症」「虐待」「大きな事故」といった、子供の発達に悪影響を及ぼすことが知られている出来事のことだ。

 そして今回の研究によるなら、こうした逆境は脳を永遠に変化させ、その痕跡は大人になってからも残っているのだという。

 そうした痕跡を見れば、その人が将来、不安症のような神経疾患の発症するかどうかも予測できるそうだ。 

25年前の逆境は脳に痕跡となって残されていた

 妊娠中の母親の喫煙、出産時の合併症、虐待、大きな事故などの、子供時代の悪い経験(ここでは逆境と呼ぶ)は、脳にどのような影響を与えるのだろうか?

 この疑問に答えるべく、オランダ、ラドバウド大学の研究チームは、およそ170人の参加者の脳をスキャンし、彼らが経験した逆境との関係を分析している。

 この170人は生まれてからのあらゆるデータが集められてきた、かなり希少な人たちで、脳のスキャンは25歳と33歳の時点で行われている。

 このデータを分析し、逆境と脳の関連性を調べてみると、非常に安定したパターンが見つかったのだ。ここから脳が逆境に対してどのように反応するのか明らかになったという。

 その影響は根深く、25年前の出来事であっても、脳にその痕跡が残されているほどだ。
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回の研究では、統計学的なモデルによって、逆境と脳の構造との相関関係を割り出している。その結果、逆境が脳の機能を永久に変化させてしまうことが判明したという / image credit: Nature Neuroscience (2023). DOI: 10.1038/s41593-023-01410-8

精神疾患を予測するヒントに

 だが、この研究でとりわけ重要なのは、発見された反応パターンは、精神疾患を発症しやすい人を予測するヒントになると考えられることだ。

 今回、脳が逆境に対して普通はどのように反応するのかがわかった。だから普通ではない反応をする人がいれば、リスクが高いと予測できるのだ。

 とりわけ、今回は将来的に「不安症になるリスク」がよく予測されている。この症状はさまざまな精神疾患において主要な症状だ。

 研究チームは、今回の発見が最終的には精神疾患の早期発見につながることを期待している。そうなれば、心の病気をより早く、より効果的に治療できるようになるだろう。

 現在、研究チームは、今回の方法で実際にそうした病気を抱えた人たちを分析しているところであるそうだ。

 この研究は『Nature Neuroscience』(2023年8月21日付)に掲載された。