2014/07/31
いくつになっても、今より昔の方が頭が回ったと思いがちな人間だが、脳のピークはもう過ぎたとあきらめる必要はない。最近の研究によって、考え方を変えることで、脳内の配線を組み替え、脳の機能と健康を向上させられることがわかってきた。

 知的能力を増強させることが科学的に証明された方法のなかには、日常的に取り入れやすく、かつ脳の健康に長期的な効果を発揮するものがいくつかある。そのうちのひとつが、マルチタスクをやめるということである。
 世間的にはマルチタスクが偏重され、同時に複数の作業をこなせるほうが、より知的で有能だと見なされる傾向がある。なかには、マルチタスクは脳にとって良いトレーニングだと考えている人もいる。しかし、この種の思考は、あなたの健康を損なう危険があることをご存知だろうか。
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 マルチタスクは精神を疲弊させる脳の浪費に等しく、放置すると早期の認知機能低下につながりかねない。また、マルチタスクが長年の習慣になっている人は、脳の記憶を司る部分にダメージを与える可能性があるストレスホルモンのコルチゾールの値が高くなることがわかっている。
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 本当のところ、あなたの脳は同時にひとつ以上のことをやるようにはできていないのだ。自分では同時にやっていると思うかもしれないが、実際はそのつどタスクを切り替えているに過ぎない。 たとえば、携帯電話で会話をしながら運転しているときの脳スキャンを見ると、視覚野の活動が制限されていることがわかる。つまり、しっかりと見ていない状態で運転しているようなもので、どうやってその場所にたどり着いたのかわからないようなケースの原因はこれだ。つねにタスクを切り替えている状態は、脳に過剰な負担をかけ、結果的に効率は悪くなる。

 マルチタスクの習慣は簡単に断ち切れるものではないが、幸いなことに、脳の健康と性能のための対策を講じるのに遅すぎるということはない。最近の研究でも、より健全な思考習慣と認知的方略を取り入れることで、脳を10年単位で若返らせることができることが実証されている。
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 着実なシングルタスクは、老年期を迎えても意思決定スキルを保つのに役立つ。メットライフ熟年市場研究所が行った、50歳から80歳までの人の理性的な思考能力に関する最近の研究「Healthy Brain, Healthy Decisions(健康な脳、健康な決断)」の結果、理にかなった意思決定を続けるために必要なのは、たくさんの情報のなかから、最も重要な情報を抽出する能力であることがわかっている。

 そして、この抽出能力を高めるのに有効な方法のひとつがシングルタスクなのだ。
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 シングルタスクを活用して、より健康な脳を獲得するための具体的な方法があるという。まず、物事はひとつずつ順番に終わらせていくことが基本ルール。中毒性のあるマルチタスクの習慣を断ち切るには努力が必要だが、そのメリットは直ちに十分に実感できるはず。きっと、あなたのクリエイティビティと活力、集中力を高めてくれるだろう。 シングルタスクを始めるための3つステップ

1.ときどき脳を休ませる

1日に数回、3分から5分ほど、頭を使う仕事から離れたほうが生産性は高くなる。外の空気を吸ったり、窓の外を眺めたりするだけでもいい。休憩して、脳のリズムがスローダウンすることで余白ができると、“アハ!モーメント”が生まれやすくなる。

2.深く集中する

電話やメールをオフにして、一度にひとつのタスクに集中する。外界とのつながりを遮断するのは不可能だと思うなら、まずは15分間その状態を保つことから始めて、徐々に集中する時間を延ばしていく。手元のプロジェクトに完全に集中することで、正確性とスピードが増し、創造力が増す。

To Do(やること)リストを作る

やることリストを作ったら、その日に最優先すべき2つのタスクを決めて、まずそれを必ず遂行すること。脳のゴールデンタイムを最重要タスクに注ぐことで、生産性の高さを実感することができるはず。
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 これらのステップの実践に加え、ヘルシーな食生活、十分な睡眠(1日8時間を推奨)、そして定期的な有酸素運動(50分の運動を週3回)を取り入れることで、心身ともに健康を保つことができるという。

 医学の進歩のおかげで、人は100歳近くまで生きることが可能になったが、何もしなければ、ほとんどの場合、その半分の50歳から脳は退化の一途をたどる。あきらめずに努力をして、自分の脳のピークを未来に持っていきたいものだ。