人間の脳には様々な特性や癖のようなものを持っている。ある特定の場面、画像や映像を記憶しているのに、その他の多くを忘れてしまうのもそうだ。それはどうしてなのか?

 新たな脳科学研究によると、人間の脳は、不可解で、意味がよくわからないものほど良く記憶していることがわかったそうだ。

 逆に言うと、その場面が予測可能で、意外性がなければ、脳が無視するため記憶に残りにくいという。たとえそれが覚えていなければならない大切なものでも。

脳はうまく説明できないことを優先的に記憶しようとする

 人間の脳は、洪水のように押し寄せる経験をフィルターにかけ、その一部を記憶として残す。では、そのように記憶として残される経験と、忘れられてしまう経験とでは何が違うのだろうか?

 米イェール大学の研究チームが行った実験は、この古くからさまざまな人が投げかけてきた疑問に答える新しいヒントだ。

 この研究の主執筆者である心理学者イルカー・イルディリム博士は、「心はうまく説明できないことを優先的に記憶します」と話す。

 つまり目にした風景がありきたりで、特に驚きもなければ、それは無視されるかもしれないということだ。

 例えば、山奥の自然を散策しているとき、突然消火栓が現れたら、きっと戸惑うことだろう。なぜ「こんなところに、こんなものが?」と。

 脳はこうした理解不能なことの方を率先して覚えておこうとするのだ。
2

AIの記憶改善のヒントにも

 このことを確かめるために、イルディリム氏らはは、記憶形成の2つのプロセス(視覚信号の圧縮とその再構成)を再現した計算モデルを開発し、一連の実験を行った。

 実験は、被験者にぱっぱっと連続で表示される映像を見てもらい、その後で覚えている映像を答えてもらうというもの。

 その結果を調べてみると、計算モデルによって再構成することが難しい映像ほど、被験者はよく覚えていることがわかったのだ。

 このことは脳が説明しにくいものや、意外性のあることを記憶する傾向を示唆していると同時に、将来的にAIのより効率的な記憶システムの開発に役立つ可能性もあるとのことだ。

 この研究は『Nature Human Behavior』(2024年5月13日付)に掲載された。