アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)は脳に特殊なたんぱく質がたまることで神経細胞が徐々に破壊され脳が萎縮することで引き起こされる進行性の病気だ。主に高齢者に見られ認知機能が低下していく。最新の研究によると「アルツハイマー病」は腸内細菌を移植することで他人に移ることが明らかになったそうだ。ヨーロッパの研究チームがアルツハイマー病の患者の大便を健康なラットに移植してみたところラットに認知症の兆候が現れ海馬の神経細胞も成長しなくなることが確認されたという。
この結果はアルツハイマー病と腸内細菌叢との関係を解明する手がかりになるとともに新しい治療法の開発にもつながる可能性があるそうだ。

ラットにアルツハイマー病の人の便を移植する実験

世界では毎年1000万人が発症するとされるアルツハイマー病はもっとも一般的な認知症だ。しかもその数はだんだんと増えておりいずれ日本人の5人に1人が発症するようになると予測されている。

アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークのイヴォンヌ・ノーラン教授を中心とする今回の研究ではアルツハイマー病の患者から採取した便を健康なラットに移植するという実験が行われた。まずアルツハイマー病患者69人と健康な人64人から移植用の便(と血液)のサンプルを採取された。次に若いオスのラットに抗生物質を与え元からお腹の中にいた腸内細菌を死滅させた。若いラットが選ばれたのは老化による影響できるだけ少なくするためだ。
それからラットに採取したサンプルを使用して便微生物移植を行いその10日後に記憶テストや健康診断を行った。

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アルツハイマー病の便を移植したラットに認知症の症状を確認

その結果は明白だった。アルツハイマー病の便を移植したラットには認知症と思われる症状が現れたのだ。さらにお腹の中に炎症を引き起こす細菌がたくさんいる人ほど認知症が進んでいる傾向があることもわかった。特に注目されたのは脳の中で記憶を司る海馬の「ニューロン新生」だ。ニューロン新生とはニューロン(神経細胞)の素となる細胞から新しいニューロンが誕生することだ。今回行われたような記憶テストでは海馬でこれがどれだけ起きているかが物を言う。そして驚いたことにアルツハイマー病患者から腸内細菌を移植されたラットはこうした新しいニューロンの誕生や成長が減ってしまったのだ。さらにヒト細胞を使った実験ではアルツハイマー病患者の血清が細胞の成長と機能を低下させることも確認された。

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アルツハイマー病への理解を前進させる重要な一歩

近年腸内細菌叢が人体の機能や健康に与える影響への関心が高まっているが今回アルツハイマー病もまたその影響受けていることが確認された。内閣府の報告書によると2012年の時点で日本の高齢者人口の7人に1人が認知症を患っているという。その数は増加傾向にあり2025年には5人に1人がこの病気になると予測されている。

アルツハイマー病は認知症の中でもっとも一般的なものだ。だからこそこの病気の理解や治療法の確立は切実な社会的な課題といえる。今回の研究結果について研究チームの1人キングス・カレッジ・ロンドンの神経科学者サンドリーヌ・テュレ教授は次のように語る。

アルツハイマー病はまだ有効な治療法がない病気です。本研究では腸内細菌叢がアルツハイマー病の発症に関係していることが確認されました。この病気の理解を前進させる重要な一歩になるでしょう

 この研究は『Brain』(2023年10月18日付)に掲載された。