地球最強生物クマムシは絶対やばい環境下であっても生き延びることができる。例えば人間の致死量の1000倍もの放射線を浴びても死なない。その生命力の源は何なのか?その謎がついに解明されるときが来たようだ。彼らは驚くべきDNA修復メカニズムを備えていたのだ。わずか1mmにも満たないクマムシだがこの能力のおかげでDNA修復遺伝子の生成物の量は動物の中でもトップクラスであるそうだ。

クマムシの最強伝説

1773年に発見された「クマムシ(緩歩動物)」はちっぽけな体でありながら極限環境に耐える圧倒的な生命力ゆえに地球最強生物と称される無脊椎動物グループだ。最大でも0.5mm程度と顕微鏡サイズの小さな体でありながら長ければ60年もの寿命があり飲まず食わずで30年も生き続けることがある(この生命力を利用すれば人間の老化を予防できるかもしれない)マイナス20度程度なら数十年生存しそれよもっと極端なマイナス272度の低温や150度の高温といった温度でさえ数分間は耐える。実質0気圧の宇宙空間でも1200気圧のマリアナ海溝の底でも死なず、ついでに5000~6200Gyの放射線ですら死なない。人間なら7~10Gyを浴びればほぼ確実に死ぬ。
2
photo by iStock

クマムシはなぜ大量の放射線を浴びても死なないのか?

クマムシはこれほどの強烈な放射線にどうやって耐えているのか? 米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校のボブ・ゴールドスタイン教授はその秘密を解明すべく研究を行っていた。そして今回「Hypsibius exemplaris」というクマムシの仲間を調べたところガンマ線を浴びたクマムシのDNAは確かにダメージを受けるがそれを修復していることが明らかになったのだ。


クマムシの一種Hypsibius exemplaris

研究チームを驚かせたのはクマムシがDNA修復遺伝子の生産性をぐんっと高めたことだ。人間とは違いクマムシはDNA修復遺伝子の生成物の量を極端なまでにアップさせる。それゆえに彼らのその類の生成物は動物としてはもっとも豊富な部類に入るほどだという。どうやらこれがクマムシが放射線に対して堅牢な防御力を発揮する秘密の1つであるようだ。こうした防御メカニズムはただクマムシの強さの秘密ばかりでなくほかの動物や微生物が有害な放射線から身を守る仕組みを解明するヒントになるとのことだ。この研究は『Current Biology』(2024年4月12日付)に掲載された。https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(24)00316-6


クマムシが休眠状態(乾眠)の鍵を握るタンパク質https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pro.4941

Protein Science』(2024年3月19日付)に掲載されたこの研究はクマムシが強いストレスを受けたとき休眠状態になるメカニズムを調べたものだ。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pro.4941体長0.5ミリにも満たない「クマムシ(緩歩動物)」はカラカラに干上がってもあらゆる分子運動が停止する絶対零度近くまで冷やされても人間が耐えられる数千倍の放射線を浴びても宇宙空間の真空状態に放置されても死なない。クマムシのこの圧倒的な防御力は「乾眠」と呼ばれる休眠状態になることで発揮される。今回の研究によるならこの状態に入る鍵を握るのが「CAHS D」というタンパク質なのだという。このタンパク質は細胞内でゲルを形成し生命活動を減速させる働きがある。
1
photo by iStock