石油を支配すれば諸国を支配できる。食糧を支配すれば人類を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー: 軍事エネルギー食糧は国家安全保障の重要な三本柱。石油地政学に続き、広く日本国民に警鐘を鳴らさねばならないのが食糧支配。蜜月関係にある米国政府と「グローバル食糧メジャー企業」は、互いを利用し合いながら世界支配を目指して来た。米国政府は世界政治の支配を。食糧メジャーは世界市場の支配を。両者は「食糧 = 兵器」であることを認識しており食糧兵器の矛先には同盟国日本も存在する。米国(食糧メジャー)は いかにして世界の食糧を支配し兵器として利用しているのだろうか?

大規模なアメリカの農業ビジネス東京大学の鈴木宣弘教授がよく紹介するエピソードに、米ウィスコンシン大学教授が農家の子弟向け授業で話したものがある。

アメリカの農産物は政治上の武器だ。安くて品質の良いものを作りなさい。それが世界をコントロールする武器になる。たとえば東の海に浮かんだ小国はよく動く。でも勝手に動かれては不都合だからその行き先をエサで引っ張れ。アメリカにおける食糧政策の認識は、大学の授業レベルでしっかり広く共有されている。

食糧 = 安全保障」の認識

食糧自給は国家安全保障の問題

食糧自給は国家安全保障の問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれているアメリカは なんとありがたいことか。それにひきか、食糧自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。米国大統領 ジョージ・ブッシュ

「食糧 = 兵器」の認識がない日本

米国にとって食糧は世界をコントロールする上で 最も安い兵器。米国がそれを隠そうともしないのに標的たる我が日本国でその認識はほぼない。

20世紀初頭ロックフェラー財団が食糧・医療分野への投資を開始
1970年代キッシンジャーが米政府の政策方針として「食糧 = 兵器」明確化
21世紀日本国の食糧自給率は 37%に転落

米政府の戦略 - 国内では農業保護米国が食糧を兵器として用いる構造を見ていく。米国の農業政策は内外で正反対である。

対国内食糧メジャー*企業保護
対国外貿易自由化要求

食糧メジャーとは

食糧メジャー「食糧メジャー」よりも「穀物メジャー」の方が馴染みのある呼び方かもしれない。上位5社を指すビッグ5の争いは激しく10年毎に入れ替わりがある。ADM社(米)ブンゲ社(米)カーギル社(米)コナグラ社(米)コンチネンタル・グレイン社(米)ルイ・ドレフュス社(仏) 農家からの穀物買付け保管、運送、種子開発、融資、ロビー団体を通じた政治的活動も。穀物メジャーの業務範囲は農業に関するあらゆる業務をカバー。

米国の巨大アグリビジネス

世界の穀物生産量比較-米国は日本の37倍米国農業の特徴として広大な新大陸に飛行機で農薬を撒きトラクターで収穫する大規模アグリビジネスが挙げられる。ダイナミックな米国農業の生産力に小さな日本列島が敵うはずもない

米国農業への手厚い支援政策

ところでアメリカの穀物輸出が強いのは本当の意味で競争力があるからではない。米国も労賃では、タイやベトナムに敵わない。この意味ではアメリカが輸入国になっていてもおかしくないのだ。しかし現実としてアメリカの米は生産量の半分が輸出されている。このカラクリの秘密は米政府による農業への手厚い保護。米国農家が輸出する上で決して赤字になることがないよう米国政府が赤字分を抱えてでも3段階の補填を保証している。

アメリカの農産物は政治上の武器

米国の農家は作り放題

過剰に生産しても赤字にならないのである意味では農家が作り放題。結果米国には大量の農産物が備蓄される という仕組みだ。米国政府の鉄面皮っぷりには呆れてしまう。

国際ルール違反? 事実上の輸出補助

簡単に紹介すると自国農家への「輸出補助」はWTOルール違反であるはず。だが米国は事実上の輸出補助を実行。条文における「黒に近いグレー」部分を強引に「白」と言い張っているのだ。しかし それは日本をはじめとした諸外国にアンフェアだと禁止している保護貿易が疑われるところ。米国の食糧自給率・輸出力が強いのは食の競争力そのものではなく重厚な支援の賜物なのだ。

米政府の戦略 - 国外では門戸開放を要求

アメリカ政府の食糧政策方針

他国には禁止しておいて自国には手厚い「輸出保護」次のステップは米国産穀物を世界中に売りつけるため各国の関税を破壊すること。


自由貿易 = 正義」プロパガンダ

ここでグローバリズムの本領が発揮。「貿易自由化プロパガンダ」である。「安く売ってあげるから非効率的な農業はやめた方が良い。」

「貿易に規制があるのは、アンフェアだ。」

「規制撤廃、自由化こそ正義だ。」「日本は自動車産業、米国は農業。互いの得意分野で役割分担した方が合理的だ。」

基礎的食糧生産国の減少

覇権国家アメリカからの号令により、基礎的食糧(コメ、小麦、トウモロコシ)の生産国は減少。アメリカ・カナダ・オーストラリアなど、少数の農業大国に依存する世界食糧システムの形成が進んだ。

悲惨な日本の穀物自給率

世界の穀物自給率比較

ウクライナ440%
アメリカ116%
北朝鮮89%
日本28%

参考までに我が国の1961年の食糧自給率 = 78%それが2020年には37%に低下。食生活の基盤となる穀物の自給率に絞ると75%から驚愕の28%に暴落している。我が国に、国民を飢餓にさらしている北朝鮮以下の自給力しかない。日本の政治家は減反政策を推進しているが正気か

日本はコメ以外ほぼ全滅

我が国の聖域であるコメだけは自給率100%を死守しているもののあらためて悲惨だ。飼料用となる大豆やトウモロコシが自給できない。ということは鶏・豚・牛などの肉や乳製品も我が国では自給できないことを意味する。

小麦13%
大豆8%
トウモロコシほぼ0%

世界の食糧が不安定化

少数の供給国による食糧市場寡占は食糧難の原因になりやすい

少数の供給国が市場独占度を高めるとどのようなリスクがあるだろうか。小さな需給変化でも価格が上下する小さな需給変化でも不安心理から輸出規制が入りやすくなるつまり少数の供給国が市場を寡占するとマネーゲームの対象にもなるし食糧危機も発生しやすくなるということだ。「少数支配者のビジネスや戦略の都合により供給の過不足を操作できる」という意味で食糧はまるで石油と同じような戦略物資になり得るのだ

2007年 世界食糧危機

2007世界食糧危機

2007年世界は食糧危機を迎えた。その理由として挙げられたのは次の通り。

気候変動オーストラリアの旱魃
原油価格高騰米国がトウモロコシをバイオ燃料にすると宣言
金融危機リーマンショックで引き上げられたマネーが農産物商品先物取引に流入

気候変動、金融危機、原油価格危機以外にも人口増加、土壌汚染。しかしこれらはみなウォール街やシティの銀行家たちが引き起こしたり、プロパガンダしている内容ではないか? と多くの方が思い浮かべないだろうか。

食糧危機の演出?

実際奇妙なことに2008年米国政府は国内の休耕地(全耕地の8%)に補助金を給付している食糧危機なのになぜ休耕を推進したのだ?これは演出された食糧危機だったのでは?2007年の食糧危機は人災ではなかったのか?投機筋が儲かるマネーゲームだったのではないか?本稿では深掘りしないが2007食糧危機には不可解な点があることを否めない。

食糧危機の結果

貿易自由化の結果各国は食糧危機に対して無防備となり果てていた。食糧という兵器に対する武装解除をしていたとも言える。自由貿易に引きずられたメキシコ、ハイチが2007年の食糧危機に直面した時一体どうなったか見てみよう

メキシコ - 主食:トウモロコシ

  • NAFTA(北米自由協定)によりトウモロコシの関税撤廃。メキシコ国内の不足分を米国から購入するつもりのあてが外れ暴動発生ブッシュ政権はメキシコ国民の主食を米国のバイオ燃料に充てていたという。

ハイチ - 主食:コメ

  • 1995年 IMF(国際通貨基金)からの融資条件として3%まで輸入米の関税引き下げ。ハイチ国内の不足分をアメリカから購入するつもりのあてが外れ暴動発生。実際には世界のコメ備蓄はまだあった。各国の不安心理または投機筋の出し惜しみ工作でコメを買えなくなっていただけなのだ。

    気に入らない政権を暴動で打倒

    アジア、アフリカ、ラテンアメリカで米国の気に入らない政権は食糧不足による民衆蜂起で打倒できる。暴動の結果誕生した社会主義政権がさらに非生産的な農業を加速し米国依存を強化するという悪循環。

    貿易自由化の武器

    世界銀行歴代総裁はすべて米国出身
    石油地政学史⑧ IMF「債務の罠」より

    覇権国アメリカの意向とはいえ各国政府がすんなり貿易自由化を受け入れたわけではない。あらゆる枠組みを駆使して外交的に囲い込んでいた。

    • 国際貿易機関 - GATT(現WTO)
    • 国際貿易協定 - TPP、RCEP、NAFTA
    • 国際金融機関 - IMF、世界銀行

    無論、各機関の高級官僚は米国出身者を中心としたグローバリストたち。世界銀行に至っては歴代総裁がすべて米国から輩出されている。「意思決定に米国政府と米国系食糧メジャーが影響を及ぼすことがない」と考える方が難しいだろう。

    債務の罠

    IMFや世界銀行からの融資を受けられないことは国家財政破綻に直結。石油地政学史で何度も登場した手口をグローバリストたちは食糧支配にも大いに活用していた。