パリを後にして岸田首相が向かったのは世界最大の日系移民を抱えるブラジルでした。

 

中南米には310万人の日系人が暮らしていますが、270万人はブラジルに集中しています。

 

そんな日本とはつながりの深いブラジルですが、岸田首相の訪問を迎えたのは過去150年で最悪と見られるハリケーンによる大洪水でした。

 

ダムは決壊し、497の都市の3分の2の住民が濁流にのみ込まれるという大惨事の真っ只中。

 

現時点での死者は60人ほどですが、行方不明者は多く、今後、死者数は膨れ上がる可能性が危惧されます。

 

ブラジルのルラ大統領との首脳会談に臨んだ岸田首相の最初の言葉は被災者に対するお悔みでした。

 

 

気候変動の影響で、2年前までは干ばつで水不足が相次いでいたブラジルですが、昨年からは一変して、大雨が降るようになっています。

 

中南米に限らず、異常気象への対策は待ったなしです。

 

ところが、岸田首相はルラ大統領には大洪水のお悔みを伝えたものの、議会での演説ではブラジル国民へのお悔みも励ましの言葉もかけませんでした。

 

例によって、事前に用意された原稿を読み上げるばかり。

 

しかも、先のワシントンでの議会演説では一切触れなかった「核兵器のない世界」の実現について、「これは広島出身の私が政治キャリアを捧げてきた目標です。共にこの目標を実現しましょう」と大上段からの岸田節を披露したのです。

 

核兵器のない世界を訴える場所は既に非核地帯を達成している中南米ではなく、相次いで訪問している核大国のアメリカやフランスではないでしょうか。

 

演説の最後では高村光太郎の有名な詩を引き合いに出し、ブラジルでよく知られているアントニオ・マチャードのスペイン語の詩、すなわち「道行く人よ、道があるのではない、道は歩むことによって作られる」と同じだと、何やら不可思議なリップサービスで締めくくったのです。

 

目の前で多くの人々が大洪水で道も家も失っている時に、高村光太郎の詩に思いを託すという演説内容には多くの日系人も付いていけないようでした。