北朝鮮製ミサイルに刻まれた「JAPAN」 メーカーに尋ねると

(朝日新聞 2024/04/25)

 ウクライナへの侵攻を続けるロシアが発射した北朝鮮製ミサイルの部品に、日本の大手メーカーの「偽物」が使われていた可能性が高いことが、朝日新聞の取材でわかった。この「日本製」だけでなく、複数の欧州メーカーの模倣品も使われていた。専門家は、これらの模倣品がロシアが撃ち込むミサイルの精度の低さにも影響している可能性を指摘する。

 

 当該のミサイルは今年1月、ロシア軍の激しい攻撃にさらされるウクライナ北東部ハルキウ州で回収された。

 

 ウクライナ政府は英調査団体「紛争兵器研究所」(CAR)の協力を得て、現場に残る290余りの部品を分析。CARは報告書で、ミサイルを北朝鮮製と断定し、短距離弾道ミサイル「KN24」または「KN23」だとしている。

 

 記者は3月中旬、ウクライナ国防省が保管する北朝鮮製とされるミサイルの残骸の取材を許可された。

 

 「JAPAN」。ミサイル下部の側面にこぶし大のベアリングが埋め込まれ、そんな文字とともに日本の大手メーカーの社名と型番が刻まれていた。ミサイルの動作に関わるものだという。


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 だが、北朝鮮には国連安全保障理事会の決議で制裁が科され、加盟国はベアリングを含めてミサイルに使われるような物資の北朝鮮向け輸出が禁じられている。日本も、独自の制裁で北朝鮮へのあらゆる物資の輸出を禁じている。

 

 では、北朝鮮はどのようにしてこの部品を入手したのか。

 

 記者は、この日本メーカーにベアリングの写真を送り、見解を尋ねた。すると意外な答えが返ってきた。

 

 「本物の製品とは異なる内容の刻印がされている」

 

 担当者は、写真を同社内で確認したと説明し、そう指摘。「偽物」と断言した。偽物であるため、それ以上のコメントはできないとした。

 

 国連北朝鮮制裁委員会の専門家パネル委員を務めた古川勝久氏は、北朝鮮のミサイル製造の背景について、「短距離ミサイルの精度向上を目指しており、外国製部品に頼らざるを得ないのが実態だ」と指摘。これまで、同パネルの調査などで、北朝鮮が中国やロシアを拠点にして、世界各国から様々な業者を介してベアリングを含むミサイル関連物資の調達を図っていることがわかっているという。

 

 一方、CARの担当者は取材に対し、メーカー側の協力によって、ミサイルに使われた複数の部品が模倣品であると判明したと説明した。部品は、欧州に拠点を置く複数のメーカーの偽物だという。企業名や該当部品の詳細については明らかにしなかった。

 

 古川氏は、こうした模倣品が使われたことについて、「北朝鮮は意図せず、(仲介業者から)偽物をつかまされた可能性が十分にある」と推察した。

 

 さらに、ウクライナ当局が北朝鮮製ミサイルの命中精度が低いと公表していることに触れ、「ベアリングを含め、部品に偽物や低品質のものが使われていることもその理由にあるかもしれない」と説明。「制裁逃れを止めることができないなら、作戦として北朝鮮の物資入手ルートに意図的にこうした偽物を混ぜ込むのも一つの対抗策になる」と述べた。(キーウ=杉山正)